舷燈げんとう)” の例文
新字:舷灯
窓ガラスに顔を押しつけて覗いて見ても、時たま沖の漁船の舷燈げんとうが遠く遠くポッツリと浮んでいる外には、全く何の光りもなかった。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
けつしておろかなる船長せんちやうふがごとき、怨靈おんれうとかうみ怪物ばけものとかいふやう得可うべからざるものひかりではなく、りよくこう兩燈りようとうたしかふね舷燈げんとう
入り江の奥より望めば舷燈げんとう高くかかりて星かとばかり、燈影低く映りて金蛇きんだのごとく。寂漠せきばくたる山色月影のうちに浮かんで、あだかも絵のように見えるのである。
少年の悲哀 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「私は祖父から聞いたのだが、この卓も舷燈げんとうも、——これは船の舷門に掛けるものだそうだが、どちらもオランダ船の船長から浄閑院さまに贈られ、のちに私の祖父が頂戴したという話だった」
燕(つばくろ) (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ふとまなこつたのは、いまこのふね責任せきにん双肩さうけんになへる船長せんちやうが、卑劣ひれつにも此時このとき舷燈げんとうひかり朦朧もうろうたるほとりより、てんさけび、ける、幾百いくひやく乘組人のりくみにんをば此處ここ見捨みすてゝ
この時もしやと思うこと胸をきしに、つとてば大粒の涙流れて煩をつたうを拭わんとはせず、柱に掛けし舷燈げんとうに火を移していそがわしく家を出で、城下の方指して走りぬ。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
くはふるに前檣々頭ぜんしやうしやうとう一點いつてん白燈はくとうと、左舷さげん紅燈こうとうえで、右舷うげん毒蛇どくじや巨眼まなこごと緑色りよくしよく舷燈げんとうあらはせるほかは、船橋せんけうにも、甲板かんぱんにも、舷窓げんさうからも、一個いつこ火影ほかげせぬかのふね
月はさやかに照りて海もくがもおぼろにかすみ、ここかしこの舷燈げんとうは星にも似たり。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
手には小さき舷燈げんとうげたり。舷燈の光す口をかなたこなたとめぐらすごとに、薄く積みし雪の上を末広がりし火影走りて雪は美しくきらめき、辻を囲める家々の暗き軒下を丸き火影ほかげ飛びぬ。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)