素寒貧すかんぴん)” の例文
極言すれば、彼等の窮極の目的は、会社の運命がどうなろうと、搾取者さくしゅしゃ宮崎常右衛門を、彼等同然の一素寒貧すかんぴんに引落すことであった。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかしその効能はおそろしいもので、素寒貧すかんぴんの書生は十年ならずして谷文晁たにぶんちょう写山楼しゃざんろうもよろしくという邸宅の主人になりました。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
貧乏のうちは、持って生まれた感情の高潔さというものを保っておられるが、素寒貧すかんぴんとなると、誰だってそうはいきませんて。
今柳橋で美人に拝まれる月も昔は「入るべき山もなし」、ごく素寒貧すかんぴんであッた。実に今は住む百万の蒼生草あおひとぐさ,実に昔は生えていた億万の生草なまくさ
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
新聞記者などが大臣をそしるを見て「いくら新聞屋が法螺ほら吹いたとて、大臣は親任官しんにんかん、新聞屋は素寒貧すかんぴん、月と泥鼈すっぽんほどの違ひだ」などとののしり申候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
素寒貧すかんぴんでゐるよりも、生活くらしが豊かでゐた方が、租税もよく納めるし、乞食にもよく施しをするものだといふ事を発見した。
明日はたちま素寒貧すかんぴんになると云う風なので、父子爵も、あれにはいくら金を遣っても無駄むだだと云っており、その点ではすこぶる信用がないのだと云う。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのひとが、世間も何も知らずに、吉益老の仲人口を信じて、素寒貧すかんぴんの父へ嫁いできた事情には、どうも母の云い分の方が本当らしいものがある。
この素寒貧すかんぴん姿を見上げ見下ろされては、はらわたのドン底まで見透みすかされざるを得ない。純色透明にならざるを得ない。吾輩は黙って一つ大きくうなずいた。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
悲しいかな、命なる哉、私はルンペン同様な素寒貧すかんぴんであれば、どうも幾らとつおいつ考えて見ても、とても一生のうちにそれを実行する事は思いも寄らない。
「それは惜しいもんだね。素寒貧すかんぴんの僕じゃ仕方ないが、武男君、どうだ、一肩ぬいで見ちゃア」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
地女じおんなを振りも返らぬ一盛ひとさかり。)そいつは金子かねを使ったでしょうが、こっちは素寒貧すかんぴんで志を女郎に立てて、投げられようが、振られようが、赭熊しゃぐま取組とっく山童やまわろの勢いですから
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
素寒貧すかんぴんのその日暮しだ。役に立ちやしないんだ。けれども、小生といえども、貴兄の幸福な結婚を望んでいる事に於いては人後に落ちないつもりだ。なんでも言いつけてくれ給え。
佳日 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そう毎晩、毎晩、首根っこの白いねえやと酒じゃあ、帰りの五十三次が十次も来ねえうちに、素寒貧すかんぴんになるのあ知れきってるって——やい、すると手めえは、何とかしゃがった。
口笛を吹く武士 (新字新仮名) / 林不忘(著)
素寒貧すかんぴん公爵は、いつもおれに勘定を払はせたが、ハルビンのいい案内人でもあつたよ。
放浪者 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
娘には婿をもろうて店を継がせようとしたが「お前見たいな素寒貧すかんぴんについて」
深沢深は名代の素寒貧すかんぴんで、アパートの四畳半に、七輪一つ枕一つの生活をしている有様ですから、急には結婚する費用もなく、結婚したところで、恋女房に食わせる当ても無かったのです。
新聞記者などが大臣をそしるを見て「いくら新聞屋が法螺ほら吹いたとて、大臣は親任官、新聞屋は素寒貧すかんぴん、月と泥亀すっぽんほどの違いだ」などとののしもうし候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
つまり、素寒貧すかんぴんだった僕が、一人前の男になれるという訳です。日頃殆ど無心も聞いてくれなかった頑固親爺ですが、やっぱり伯父さんというものは有難いですね
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「近ごろなら、先生、まだいいんですがね、もう一年以上も、取られっ放しの、素寒貧すかんぴんつづきですよ。魚をとったぐらいじゃ、いくらとったって、間にあわねえ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところがドミトリイ・フョードロヴィッチが素寒貧すかんぴんでありながら、しかも、一流の伯爵の息子に決闘を申しこんだとすれば、その若様は、のこのこ出かけて行くに相違ないんですよ。
「うふっ。相変わらず口がうまいよ。もうこりごり。よりをもどそうの何のと、味なことはいわないでおくれよ、あたしみたいな素寒貧すかんぴんの女を相手にしちゃあ、磯五様の估券こけんにかかるじゃあないか」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それに妙子さんは由緒ゆいしょ正しい大資産家の愛嬢だ。お前の様な素寒貧すかんぴんの浪人者に、どう手が届くものか。サア、早く今の内に、あの人のそばから遠ざかってしまうがいい
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だが婆さん、この截江鬼せっこうき張旺ちょうおうだって、いつもそうそう、素寒貧すかんぴんじゃねえんだぜ。巧奴にも言っといてくれ。これだけあったら当分は通いづめでもつかいきれめえッて
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから素寒貧すかんぴんでいながらも、気宇だけはまあ今のリアルな青年よりは豊かだった。そしてどうやらささやかな家を一軒持って、両親と一緒に暮せるようになったのが二十五歳前後でした。
親鸞の水脈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
作者申す、右のほか十数名の顕官、富豪、最高爵位の人々、元老⦅明智丈けは例外の素寒貧すかんぴん⦆などの名前が列記してあったのだけれど、管々くだくだしければ凡て略し、名前の下に番号の打ってある六名丈けを
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一兵一の蓄えもなく、居候をしている素寒貧すかんぴん若公卿わかくげには、どんな過激な議論も吐けようけれど、重喜には、譜代ふだいの臣、阿波二十五万石の足枷あしかせがある。そう、滅多に動けたものではない。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
怒るかと思いのほか、その時、曹操という素寒貧すかんぴんの一青年は
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)