突兀とつこつ)” の例文
新クレムリン宮殿は、突兀とつこつたる氷山の如く擬装ぎそうされてあった。中ではペチカがしきりに燃えていて、どのへやも、頭の痛くなるほどえくさかった。
天が下には隠家もなくなつて、今現身げんしんの英傑は我が目前咫尺しせきの処に突兀とつこつとして立ち給ふたのである。自分も立ち上つた。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
能方のうかた川を渡り岩はな堤を経て小竹堤を行く。望ところ連山垣墻ゑんしやうのごとく東南に突兀とつこつたる山あり。香春山かはらやまといふ。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
彼はすでに突兀とつこつたる巌石を肩に支えながら、みずらの髪をひたいに乱して、あたかも大地だいちいて出た土雷つちいかずちの神のごとく、河原によこたわる乱石の中に雄々しくも立ち上っていた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
雀宮ヲ過ルヤ晃峰こうほう乾位けんいニ望ム。突兀とつこつトシテ半空ニそびユ。諸山ソノふもとヲ擁シ扶輿磅礴ふよほうはくタルコトソノ幾十里ナルヲ知ラズ。時ニ晩霽ばんせい。夕陽明媚めいび。山色ことごとク紫ナリ。昏暮こんぼ宇都宮ニ投ズ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし、すぐに滝人は次の言葉をついで、小法師岳の突兀とつこつとした岩容を振り仰いだ。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
家の前方には、牧場や木の茂った長い斜面が広がり、突兀とつこつたる岩が屹立きつりつし、曲がりくねったもみがけにしがみつき、大きく腕を広げたぶなが後ろに倒れかかっていた。空はどんよりしていた。
此処から初めて利根川が幽谷の間に白練をけるが如く流れているのを下瞰し、其奥に大利根岳の突兀とつこつ天に朝するを望み、水源探検の目的殆どここに終れりとし、再び水長沢に下りてこれを遡り
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
見んとして見えず何となく氣さかんになりて身に膓胃ある事を忘れたり此山路このやまぢ秋は左こそと青葉をくれなゐに默想し雪はいかにと又萬山を枯し盡して忽ち突兀とつこつ天際に聳ゆるしろがねの山を瞑思すつひに身ある事を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
山勢さんせいほとんど直立、くわふるに突兀とつこつたる危岩きがん路によこたはるに非れば、佶倔きつくつたる石南樹のたいさへぎるあり、し一たびあしあやまらんか、一てん忽ち深谷しんこくつるを以て、一行の両眼はつねそそぎて頭上の山頂さんてうにあり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
突兀とつこつとして
曠日 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
危岩突兀とつこつまさに頭上にちんとす、進退たにまりあへて良策をあんするものなく、一行叢中に踞坐こざして又一語なし、余等口をひらきて曰く、すすむもかた退しりぞくも亦かたし、難は一なりむしすすんでくるしまんのみと
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)