眼醒めざ)” の例文
兵馬はその茶屋というのへ行ってみたが、たしかにお二人はおいでになっているが、未だお眼醒めざめになりませんという。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼女の体内には性の眼醒めざめがぼんやり感ぜられていたにもせよ、彼女はまだそれを自覚していなかったし、夫も敢て自覚させようとは努めなかった。
……ところがツイこの頃になりまして、そうした女性的な習慣に埋もれておりました私の心が、いつの間にか男性として眼醒めざめ初めたので御座います。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かつて人の足に踏ませない苑内えんないなので、ここの庭苔にわごけは実に眼醒めざめるばかり鮮やかであった。苔の香いというものを私はここで初めてせるほど知った。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひて言へば、不自然な快活さだ。何かの理由で今までかれてゐた快活の翼が急に眼醒めざめたやうな。……伊曾は鋭いひとみで少女を見すゑながらさう直感した。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
お霜はうやうやしく千曲の手を取って上座に据え、眼醒めざめるばかりに美しい金襴きんらん袱紗ふくさを押し開き、黄金きんこしらえた十字架を、彼女の前へ持ち出しながら、彼女にとっては寝耳に水の
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この偃地えんち性の小灌木は、茎の粗い皮を、岩石に擦りつけるようにしている、かしわに似て、小さい、鈍い、鋸の歯のように縁を刻んだ葉を、眼醒めざめるように鮮やかな緑に色づけて
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
反絵はんえは鹿狩りの疲労と酒とのために、計画していた卑弥呼の傍へ行くべき時を寝過した。そうして、彼が眼醒めざめたときは、耶馬台やまとの宮は、朝日を含んだ金色こんじきの霧の底に沈んでいた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
が、どうして、幾日も幾日もの鬱屈うっくつの床で、光明に眼醒めざめてじっとしていられよう!
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
しかるに或夜、夢を見て今迄になかった重い暗愁を感じて不快な気持から眼醒めざめた。
薔薇と巫女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
或る時、平三は酒を呑んでいて、ふと憤怒ふんぬ眼醒めざめた。彼はその憤怒を一入ひとしお燃え立たそうとして酒をあおった。酒を酒を、あおってあおって彼はぐでんぐでんに酔っ払って出掛けて行った。
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
余計な心配だが、これから五年あるいは十年ののち、工事おわりて元の閑寂なる山村に帰った時、初めて眼醒めざむる彼等の苦痛は、一旦いったん心にいんせられた惰弱のふうと共に永久に消ゆるの時がなかろう。
そうさとしてから、老母はなおもいうのだった。奥のお客が眼醒めざめたら、改めてもう一度、わざを競ってみるがよい。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一千二百二十尺の、王岳おうたけ山の頂きが、次第に水色を呈して来た。しかし山肌はまだ暗く、山全体は眼醒めざめなかった。王岳と向かい合った釈迦岳しゃかがたけは、しかし半分醒めかけていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……極めて徐々に……徐々に……工場内に重なり合った一切の機械が眼醒めざめはじめる。
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
踊子らもりぬきと見えそれぞれに優劣の差のない、揃った清潔な感じがした。手穢てあかの染まぬ若い騎兵の襟首えりくびの白さにちらりとほの見える茎色のつやがあった。実に眼醒めざめるばかりの美しさだった。
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「昼寝と申していたが、実は筑前はもう眼醒めざめておるのではあるまいか。何にしても、余り無愛想な」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「私のことを女菩薩だなどと、なんの托宣などござりますものか」鳰鳥は静かに長者のわき眼醒めざむるばかりに美しい匂うような姿を坐らせたが、心持ち眉をひそませて、庭の三人の女を見た。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
水色かった振り袖を着、鹿子かのこをかけた島田髷へ、ピラピラのかんざしをさしている。色が白くて血色がよくて、眼醒めざめるばかりに縹緻きりょうがよい。古い形容いいぐさだが鈴のような眼つき、それがきわめてあだっぽい。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)