甲板デッキ)” の例文
甲板デッキしずかに歩いたり、お互いにじろじろ見かわしたり、または同船していることを知らずにいた知人に偶然出逢ったりしていた。
観音丸かんのんまるは直江津に安着あんちゃくせるなり。乗客は狂喜の声をげて、甲板デッキの上におどれり。拍手はおびただしく、観音丸かんのんまる万歳! 船長万歳! 乗合のりあい万歳!
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真夜中、私は再び甲板デッキに出たが、湾に入ることよりも遙かに興味があったのは、海の燐光である。その光輝は驚くばかりであった。
水船の舷側にヘバリ付いてブカブカ遣っていることがわかった……ちょうど向側むこうがわだったから甲板デッキの上から見えなかったんだね。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そうだね、何かに衝突したらしいことは僕も知っていたよと、私が笑いますと、ボクソウルは続けてF甲板デッキまで水が来て、郵便室メイル・ルウムは大洪水だ。
運命のSOS (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
彼等の姿が、昼間、甲板デッキにみえると、不意にマダム・クラビンスキイが三等客室の方からあがつて来ることがあつた。
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
プープ甲板デッキに駆け上りフライング・ブリッジを走って、死物狂いの兵員が前艦橋へと駆け抜けてゆく。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
船長は大きくうなずいて、ボーイに短銃ピストルを取りにやった。短銃は空へ向けられた。空の猿と甲板デッキの飼主とは、主従で腹をあわしているように船長へ歯をむいて吠えた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
聯合組は、大庭春吉、田中光徳、牧野藤三郎とうざぶろう、などの重役に、岡野松四郎、三崎清次郎、渡辺国明、金五郎、等の小頭こがしら連中、甲板デッキ番の新谷勝太郎、会計の松丸龍蔵、その他。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
彼は怒りのあまりに、今にもわたしをち倒しはしまいかとさえ思った。しかも彼はもう一度ののしったあとに、船長室のドアを荒あらしく突きあけて甲板デッキへ飛び出してしまった。
と首を振って、そのまま甲板デッキへ飛び降りた。が、そこで直ぐに警官達と格闘が始った。
動かぬ鯨群 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「ペータアさん、きっと甲板デッキに出ててくれはりますやろなあ」
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
フィリップスとブライドが無電室を跳び出して見ると、船首から船体の半ばまで水に突っ込んで、最上層のボウト甲板デッキさえ浪に洗われている。
運命のSOS (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
船の甲板デッキは、むろん一瞬間に修羅場しゅらじょうと化していた。今の今まで、抱き合ったり、吸付き合ったりしていた男や女が、先を争って舷側に馳け付けた。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
はしけくさりきて本船と別るる時、乗客は再び観音丸かんのんまると船長との万歳をとなえぬ。甲板デッキに立てる船長はぼうだっして、満面に微笑えみたたえつつ答礼せり。はしけ漕出こぎいだしたり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼女は、甲板デッキの上の水溜りをよけながら、右へ左へと歩きまはつた。梯子を伝つて、二等船室の甲板へも降りた。それから、足の向くままに、歩けるところは何処でも歩いた。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
驚くべしこの英国船中の警戒は厳重を極めてB甲板デッキ太子の船室ケビンの前には例の私の見た大使館員なのであったろう、英人二名が張り番をして絶対に見送り人を近付かせなかった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
三崎の若いも出て来て、浮標ブイにかかるのを待って、段取りしようとした。そしたら、オヤジ、三菱の甲板デッキ番が——これは、共働組でやることになっとる。……というんですよ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
ところで甲板デッキに引返してみると船はモウ十四海里も西へ廻っていて、絶影島は山の蔭になってしまっていた。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
俵の数は約二百俵、五十こく内外の米穀べいこくなれば、機関室も甲板デッキ空処あきも、隙間すきまなきまでに積みたる重量のために、船体はやや傾斜をきたして、吃水きっすいは著しく深くなりぬ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
従って機関部の人たちに遇うことは殆どなかった。石炭と灰と油にまみれて船底ダンビロうごめいている彼らを、何かと言えば軽蔑する風習がの船の甲板デッキ部員をも支配していた。
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
金五郎が、三菱の甲板デッキ番と、藤八拳とうはちけんを打っていると、仲居がそっと袖を引いた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
海面にこだまして汽笛が物憂げに鳴り響き、今や雨のごとくに降りしきるテープとハンカチの波の向うに、この時突然太子とシャアとの姿がボート甲板デッキいささか船首バウ寄りのこっちに現れたのであった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
波の静かな夜は、甲板デッキに出て空の星を二人で眺めた。
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
甲板デッキまで見送って来た連絡船のボーイ連にチョット脱帽したが、頭は真白く禿げたツルツル坊主であった。
人間レコード (新字新仮名) / 夢野久作(著)
同室のボウイの口から甲板デッキ部の下級員クルウが十七人、機関エンジン部が二十一人で、船はこれから一直線に南下して木曜島で海鳥糞を積み、布哇ハワイを廻って北米西海岸グレイス・ハアバアで角材を仕入れ
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
その数百坪に亘る「かわ」の火の海の上へ、工場の甲板デッキから突出ている船橋めいたデッキの突端に、鳥打帽、菜葉服姿の中野学士が凝然と突立って見下している。
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
日本の参謀本部の無電一本でどこへでも行く船なんです。第一長崎へなんか行きやしません。嘘だと思われるならば甲板デッキへ上って、羅針盤コンパスを覗いて御覧なさい。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……と思ううちに、やがて谷底へ落ち付いた一刹那せつな、次の波の横っ腹に艦首トップを突込んでドンイイインと七噸から十噸ぐらいの波に艦首トップ甲板デッキをタタキ付けられる。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
恐ろしく小面倒な動力の計算書なんかを一週間がかりで書き上げて甲板デッキに持って行くと、「アリガトウ」と云って、見る片端かたはしから一枚一枚海の風に飛ばしてしまう。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
綺麗に剃り上げた頬の皺は、濡れた紙のように弾力を失って、甲板デッキの上からトロンと見据えた大きな真珠色の瞳は、夢遊病者のソレのようにウットリと下関駅のを映している。
人間レコード (新字新仮名) / 夢野久作(著)
晩香坡バンクーバに着いてっからS・O・Sの女郎めろうをヒョッコリ甲板デッキに立たせて、ドンナもんだい。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
高い甲板デッキの上から五六人、瞳を揃えて遠ざかって行く彼のうしろ姿を見送っていた。
人間レコード (新字新仮名) / 夢野久作(著)
とりあえず甲板デッキの部屋へ帰りましょうね。あそこでユックリ御相談しましょう。ナアニ。この船の中では船長以下が僕の命令通りに動きますから、心配は要りません。問題は大連たいれんに着いてからです。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)