たまき)” の例文
二挺の鉄砲は、隆々と風を呼んで、見ている者の眼には、それがちょうど二箇のたまきを空中に描いていたようだったということである。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女流声楽家三浦たまきと今は故人の千葉秀浦しうほとの関係は一頻ひとしきやかましい取沙汰とりさたになつたので、世間には今だにそれを覚えてゐる人もすくなくあるまい。
即ち面白いもつれ合った事を真先に書き出して置いて、乱れたたまきの糸口を探るように、其の原因に遡って書くと云うことが出来なかったのでした。
探偵物語の処女作 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
この三輪田先生がたまき女史の離婚を評して「二人の職業から来る趣味の差別などは夫婦としての情愛に一毫いちごうも加うる所がないはずでなければならぬ」
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
「百〇一」の歌を以て結ばれた「新春」の書店に移った「みみずのたはこと」が百〇一版から始まるも面白い因縁ではあるまいか。生命はまことにたまきの端なきものである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
六つ七つばかりの美しき小娘二人その傍に遊び戲れ、花を摘みてたまきとなす。されどそれより一際ひときは美きは、此家の門口に立ち迎へたる女子なり。髮をば白き枲布あさぬのもて束ねたり。
悲、悲、悲の涙を呑んで、十二因縁の流轉のたまきを切り、幻、幻、幻のちまたに徘徊して、二十五生死しやうじのきづなをくりはて給ひしといふは、誰のことでござりまするか。ハイ。
山家ものがたり (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
これに反してたまき夫人の独唱のごときは、ただきわめて不愉快なる現実の暴露に過ぎない。
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
夫死して妻のみ孤児を養ふに、第三女真嘉那志さかなし十三歳、たちまち懐胎して十三月にして一男を坐下ざかす。頭には双角そうかくを生じ眼はたまきくるが如く、手足はたかの足に似たり。容貌ようぼう人の形にあらず。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さあその新潟から帰った当座は、坊やも——名はたまきといったよ——環も元気づいて、いそいそして、嬉しそうだし、私も日本晴にっぽんばれがしたような心持で、病気も何にもあったもんじゃあないわ。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この秀輔がのちに、三浦たまきのあとを追いかけ廻すようになってね。
平次放談 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
○七月、柴田たまき女史、帝国劇場に出勤して独唱。
明治演劇年表 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
うなじ巻く毛のぬくみ、真白ましろなるほだしのたまき
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
花のたまきかゝれかし
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
たまきなす外輪山そとがきやま
艸千里 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
『ホホホホ。そうでしょうねえ。此の家に、ほかに御新造様などがいてたまるもんじゃないからね。どこに居るんですたまきさんは』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
文部視学官の丸山たまき氏は九人の子福者こふくしやで、お湯に入る時には自分が湯槽ゆぶねつかりながら、順ぐりに飛び込んで来る子供達を芋の子でも洗ふやうにあかこすつてやる。
陸軍軍医せいの藤井氏と東京音楽学校助教授のたまき女史との離婚が、新聞紙の上で趣味の相違から生じた離婚だとか、陸軍と芸術との衝突だとか大袈裟おおげさに報道せられ
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
今度は三浦たまきのあとを猛烈に追っかけはじめた。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
行きつめぐりつこのたまき
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
『なに、真雄さねおの弟が見えたと。……むむ、大石村へ養子に行ったとか聞いていたが、あのたまきと申す次男であろう。いい所へ来た。ちょっと上げろ』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藤井氏は陸軍軍医正、たまき女史は音楽学校助教授、二氏の職業はかように明白ですが、二氏が趣味の人であるかどうかと申す事が明白でない以上、この離婚が趣味の衝突に起因したとはうべなわれません。
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
又かと、うるさく思わっしゃろが、弟のたまきのう、もう、養子先の家を出てしもうた事じゃに。……何とか、こらえて、もいちど家へ入れて下さらぬか。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
われと燃え情火たまきに身をきぬ心はいづら行方ゆくへ知らずも
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)