きょう)” の例文
尋常の大津絵ぶしと異なり、人々民権論にきょうせる時なりければ、しょう月琴げっきんに和してこれをうたうを喜び、その演奏を望まるる事しばしばなりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
ナブ・アヘ・エリバは、ある書物きょうの老人を知っている。その老人は、博学なナブ・アヘ・エリバよりも更に博学である。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
もう、そのころには、廊下を行き来する塾生たちの足音も頻繁ひんぱんになり、ほうぼうから、わざとらしいかけ声や、とんきょうな笑い声などもきこえていた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
善か、悪か、きょうか、にもかくにも彼女かれは普通の人間でない、一種不思議の魔力をっている女のようにも見えた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
君は先年長男子を失うたときには、ほとんどきょうせんばかりに悲嘆したことを僕は知っている。それにもかかわらず一度異境に旅寝しては意外に平気で遊んでいる。
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
現執権高時の田楽でんがく(土俗的な歌舞)ずきも、きょうに近いが、闘犬好みは、もっと度をこしたものである。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父母の悲歎ひたん大方ならず、母は我が児の不憫ふびんさに天をうらみ人をにくみて一時きょうせるがごとくなりき。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
自由平等の新天新地を夢み、身をささげて人類のために尽さんとする志士である。その行為はたとえきょうに近いとも、その志はあわれむべきではないか。彼らはもと社会主義者であった。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
間もなくなかきょうせる柾木と、木下芙蓉の死体とが、土蔵の二階でさし向いであった。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
直接または間接に関係ある人のはなしを聞いたり、新聞の報道を読んだりして、いかに人心じんしんあらやいでほとんどきょうするごときさまなるかを見て、これが日本であったならば抜刀騒ばっとうさわぎになるであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
熱しるに理性をともなわない血液と頑健がんけんな肉体と——きょうにちかい情涙の持ち主ときている。
おもえば女性の身のみずかはからず、年わかくして民権自由の声にきょうし、行途こうと蹉跌さてつ再三再四、ようやのち半生はんせいを家庭にたくするを得たりしかど、一家のはかりごといまだ成らざるに、身は早くとなりぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
みんなが拍手はくしゅした。拍手にまじって、だれかがとんきょうな声でさけんだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
しかし、血にきょうしているだろうなどといった周馬や孫兵衛の臆測おくそくはあたっていない。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、とんきょうに答えて、急いで俊亮のそばをすりぬけた。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)