狂奔きょうほん)” の例文
また、明らかに、反秀吉を今もとなえて、この正月にさえ、軍備や諜報に狂奔きょうほんしている一部の勢力も、大坂城の門には馬をつながない。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
帆村荘六は、某大国の機密を何とかして探りあてたいと、寝食を忘れて狂奔きょうほんしたが、敵もさる者で、なかなか尻尾をつかませない。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
物が足りない物が足りないと言って、闇の買いあさりに狂奔きょうほんしている人たちは、要するに、工夫が足りないのです。研究心が無いのです。
やんぬる哉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
人には道理を考える心が無くなって、あたかも酔漢の如くに市中を狂奔きょうほんする者が沢山あった。警察の官吏とてもこれを制止しようとは勉めなかった。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
写生文家の人間に対する同情は叙述されたる人間と共に頑是がんぜなく煩悶はんもんし、無体に号泣し、直角に跳躍し、いっさんに狂奔きょうほんするていの同情ではない。
写生文 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
如何に挙げてこの事件に狂奔きょうほんしたかを話され、そしていよいよとなった時に頼りになったのは、当時の理科大学の先生たちだけであったと述懐された。
千里眼その他 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「お言葉ごもっともにござりまする。なれど、同心をはじめ江戸じゅうの御用の者ども、何を申すにもただいまはあの辻斬りの件に狂奔きょうほんしておりまして——」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
自分自身が、復讐ふくしゅう狂奔きょうほんして、心にもない偽りの結婚をしていることが、あさましい罪悪のように思われて、とりとめもなく、心を苦しめることなのであった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
女が高荷を背負っていたために、馬が驚いて狂奔きょうほんしたというのを理由に、気の立っていた時之助は、怪我をして肥たごに落ちた女を見捨て、そのまま屋敷へ引揚げて来たのです。
当局のみならず、市民の有志も協力して、この街上の女の殺者、暗黒をう夜獣を捕獲しようと狂奔きょうほんし、ありとあらゆる方策が案出され実行された。徹夜の自警団も組織された。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
東京では江戸のむかし山の手の屋敷町に限って、田舎から出て来た奉公人が盆踊をする事を許されていたが、町民一般は氏神の祭礼に狂奔きょうほんするばかりで盆に踊る習慣はなかったのである。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その逃亡芸者を探しまわった人たちの狂奔きょうほんというものを、全く知らなかった。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ある日もアンポンタンはおまっちゃんと四ツ角で、その大人の、目覚めざましい狂奔きょうほんを見物していた。すると、帝釈様たいしゃくさまの剣に錦地にしきじ南無妙法蓮華経なむみょうほうれんげきょうのぼりをたてた出車だしの上から声をかけたものがある。
夜に日を次いで狂奔きょうほんしているにもかかわらず、どこに風がふくかと、相変らずの夜あるきをつづけている彼、しかも、爪先を向けているのが、ついこないだ、門倉平馬に連れられて無理に引き込まれた
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
獣の群は狂奔きょうほんした。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
権叔父やお杉ばばは、なお信じるはずもない。御堂の床下ではないか、裏山へ逃げたのではないかと、陽の暮れるまで、狂奔きょうほんしていた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
海面は、狂奔きょうほんする幾すじもの水はしらと、あたりをつつむまっくらな火薬のけむりとでもって、すっかりつつまれてしまった。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そういう感情の動くままに、狂奔きょうほんしていた自分のあさましさが、しみじみ分かったような気がした。船を追って狂奔した昨日の自分までが、餓鬼がきのようにあさましい気がした。
俊寛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
カジョーとは段々仲が良くなり、ぼくの臭さも彼、許してくれてきましたようです。『春服』創刊から二号にかけて、ぼくは昨年暮から今年の三月頃まで就職に狂奔きょうほんしました。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
と人々は、刹那のあとを、なお見まもったが、何のこともなく、馬は又兵衛を乗せたまま、追いついた敵勢のなかを狂奔きょうほんしていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
広瀬中佐の銅像の向うあたりに、うち固って狂奔きょうほんする一団の群衆があった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「冠省。首くくる縄切なわきれもなし年の暮。私も、大兄お言いつけのものと同額の金子きんす入用にて、八方狂奔きょうほん。岩壁、切りひらいて行きましょう。死ぬるのは、いつにても可能。たまには、後輩のいうことにも留意して下さい。永野喜美代。」
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
と、一言聞えたのみで、それきり門内の声のないのは、急を表御堂へ告げて、咄嗟とっさの防禦に狂奔きょうほんしているものに違いなかった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
火焔は時を仮借かしゃくしていない。一歩を誤らんか、せっかくそこを捜しあてても、あとのまつりとなることは知れている。狂奔きょうほんせずにはいられなかった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
びし、びし、とむちわれて、檻車を曳いてゆくまだらの牛は、尾をふって、狂奔きょうほんしてゆく。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
放生月毛はこのあいだに、空鞍からくらを乗せたまま長坂長閑の陣地内へ、向う見ずに狂奔きょうほんしてゆく。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東儀与力は、愕然がくぜんとして、外へ駈け出した。彼の声に、獄吏は棒をかかえて飛んで来た。だが、八方への狂奔きょうほんは、雲をつかむような騒ぎに帰した。一つのお笑い事で終りを告げた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仮吟味かりぎんみの準備のために、与力や同心が狂奔きょうほんするかたわらには、奉行中山出雲守いずものかみが三家の若殿万太郎が不時の訪れに、その応接にも狼狽し、一方、役宅へ迎び入れた日本左衛門と金吾とには
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
血まなこな狂奔きょうほんにくれていた密偵群の網の目にも皆目かいもく行方知れずであった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の驚きと共に、駒も驚いて、突然、まっ白な旋風つむじかぜを起して狂奔きょうほんした。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、さしずに狂奔きょうほんしていたので、その顔からも、湯気が立っていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)