ひか)” の例文
初めて鳴鳳楼で逢った以来儂のではお厭なのと云って手巾を出されたことを第一として、自分と手をひかれて歩いた事、結んだこよりに目賀田とあるを悦んだ事
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
すでにこの河面に嫌厭けんえんたるものをきざしているその上に、私はとかく後に心をひかれた。何という不思議なこの家の娘であろう。この娘にも一光閃も、一陰翳もない。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それがまたかんが悪いと見えて、船着ふなつきまで手をひかれて来る始末だ。無途方むてっぽうきわまれりというべしじゃないか。これで波の上をぐ気だ。みんなあきれたね。険難千方けんのんせんばんな話さ。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
又あの子も為ないでも好い苦労を為なけりやなるまいと、そればかりにひかされて、色々話も有るものだから、あの子の阿母さんにも逢つて遣りたし、それに、私も出るに就いちや
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
藤井はしょう何人なんびとなるかを問いきわむる暇もなく、その人にひかれて来り見れば、何ぞはからん従妹じゅうまいの妾なりけるに、更に思い寄らぬていにて、何故なにゆえの東上にや、両親には許可を得たりやなど
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
足下きみ昨夜ゆうべはマブひめ(夢妖精)とおやったな! 彼奴あいつ妄想もうざうまする産婆さんばぢゃ、町年寄まちどしより指輪ゆびわひか瑪瑙玉めなうだまよりもちひさい姿すがたで、芥子粒けしつぶの一ぐんくるまひかせて、ねぶってゐる人間にんげん鼻柱はなばしら横切よこぎりをる。
さては往来ゆききいとまなき目も皆ひかれて、この節季の修羅場しゆらばひとり天下てんかくらへるは、何者の暢気のんきか、自棄やけか、豪傑か、さとりか、酔生児のんだくれか、とあやしき姿を見てすぐる有れば、おもてを識らんとうかがふ有り
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)