煮〆にしめ)” の例文
烏賊いか椎茸しいたけ牛蒡ごぼう、凍り豆腐ぐらいを煮〆にしめにしておひらに盛るぐらいのもの。別に山独活やまうどのぬた。それに山家らしい干瓢かんぴょう味噌汁みそしる
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
縄暖簾なわのれんの隙間からあたたかそうな煮〆にしめにおいけむりと共に往来へ流れ出して、それが夕暮のもやけ込んで行くおもむきなども忘れる事ができない。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
川越屋に取って返して、店の瓶の中を見ると、佐野屋が言った通り、煮〆にしめたような手拭が一筋、少しばかり血のにじんだのが出て来ました。
折から長火鉢のわきへ出してあったお重箱の煮〆にしめをひろげて、猫板に乗せてあった一本まで、燗銅壺かんどうこに這入っております。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
茶呑茶碗ちやのみぢやわんひとつ/\にかれて、何處どこからかそなへられたいも牛蒡ごばう人參にんじん野菜やさい煮〆にしめ重箱ぢゆうばこまゝかれた。其處そこにはぜんだいなにもなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
この世界なみに、たいてい眼刺めざし煮〆にしめ。顎十郎は、うむとも言わずにめしを喰い出す。飯を喰いおわると、お先煙草さきたばこを一服二服。窓から空を見上げながら
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
お婆さんはツンとして腰に繩帯を巻いた姿で、牛小屋にはいって行った。真黒いコンニャクの煮〆にしめと、油揚げ、里芋、雑魚の煮つけ、これだけが祭の御馳走である。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「そうか、それでは」と桂は女中に向かって二三品命じたが、その名は符牒ふちょうのようで僕には解らなかった。しばらくすると、刺身さしみ煮肴にざかな煮〆にしめ、汁などが出て飯をった茶碗に香物こうのもの
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
いつも佃煮を売りにゆく顧客とくいさきで、握り飯を五つ盗んだからだ、鉄砲洲の質屋が近火に遭って、手伝いに来た出入りの者たちに炊出たきだしをした、酒肴さけさかな、握り飯や煮〆にしめがずらっと並んでた
暴風雨の中 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
○焼豆腐、人参、牛蒡その他のお煮〆にしめを煮るには魚類のスープを用ゆべし。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
三十前後、醤油で煮〆にしめたような大年増ですが、どこか気の強そうなところがあって、丑松を取って押える貫禄は充分です。
肺病は馬のふん煮〆にしめた汁がいいと誰かに聞いた事がある。このひとの気性の荒さは、肺病のせいなのだと思うとぞっとして来る。多摩川で一度血を吐いた事がある。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
しかし何だか口がさびしいと見えて、しきりに縄暖簾なわのれんや、お煮〆にしめや、御中食所おちゅうじきどころが気にかかる。相手の長蔵さんがまた申し合せたように右左とのぞき込むので、こっちはますます食意地くいいじが張ってくる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「煮賣屋のお勘子だらう、ちやんと探索が屆いて居るよ。手前てめえが買ひに行くと、お煮〆にしめが倍もあるんだつてね」
爺さんは頬張ほおばった煮〆にしめみ込んで
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「煮売屋のお勘子かんこだろう、ちゃんと探索が届いているよ。手前てめえが買いに行くと、お煮〆にしめが倍もあるんだってね」
煮〆にしめを腹一杯食つてよ、町内のお湯を買ひ切つて三日ばかりつかつて見ねえ、こいつは大名にもないぜいだぜ」