やうやく)” の例文
私方養介も二年煩ひ、去年やうやく起立、豊後へ入湯道中にて落馬、やうやく生て還候。かくては志も不遂とげず、医になると申候。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
やうやく雪のやみたる時、雪をほりわづかに小まどをひらきあかりをひく時は、光明くわうみやう赫奕かくやくたる仏の国に生たるこゝち也。此外雪こもりの艱難かんなんさま/″\あれど、くだ/\しければしるさず。
『サア、これから獅子狩しゝがりだ/\。』といさみすゝめるのを、わたくしやうやくこと押止おしとめたが、しからばこのしま御案内ごあんないをといふので、それから、やまだの、かはだの、たにそこだの、深林しんりんなかだの
その姿を煤煙ばいえんと電燈の光との中に眺めた時、もう窓の外が見る見る明くなつて、そこから土の匂や枯草の匂や水の匂がひややかに流れこんで来なかつたなら、やうやく咳きやんだ私は
蜜柑 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
年々歳々其度を加ふる生活の困苦惨憺こんくさんたんに、やうやくく目を挙げて自家の境遇を覚悟するに至り、沸騰ふつとうせんばかりの世上の戦争熱も最早もはやや、彼等を魔酔ますゐするの力あらず、彼等の心の底には
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
扨帰後早速に何か可申上候処、私も病気こゝかしこあしくなり、やうやく此比把筆出来候仕合、延引御断も無御坐候。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
わたくしこれにはすこぶ閉口へいこうしたが、どつこひてよ、と踏止ふみとゞまつて命掛いのちがけに揉合もみあこと半時はんときばかり、やうやくこと片膝かたひざかしてやつたので、この評判へうばんたちま船中せんちゆうひろまつて、感服かんぷくする老人らうじんもある
おほいに仰天致し、早速下男共々、介抱仕り候所、やうやく、正気づき候へども、最早立上り候気力も無之、「所詮は、私心浅く候儘、娘一命、泥烏須如来、二つながら失ひしに極まり候。」
尾形了斎覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
狐が、走れなくなるまで、追ひつめた所で、それを馬の下に敷いて、手取りにしたものであらう。五位は、うすい髭にたまる汗を、慌しく拭きながら、やうやく、その傍へ馬を乗りつけた。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
やうやくこと起上おきあがつた水兵すいへいは、新月しんげつかすかなるひかりそのあなながめたがたちま絶叫ぜつけうした。
花のない桜の木の下にゐた老人は、この時やうやく頭をあげて、海の上へ眼をやつた。
かちかち山 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
再三聞き直し候上、やうやく、然らば詮無く候へば、ころび候可きおもむき、判然致し候。
尾形了斎覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)