満々まんまん)” の例文
旧字:滿々
白浪はくろうをかんで、満々まんまんを張ってきた八幡船ばはんせんの上では多くの手下どもが、あけぼのの空をあおいで、しおなりのようにおどろき叫んでいた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕が今立っているところは、昨日の夜までは、海水が満々まんまんとたたえられていたところで、深海魚どもの寝床であったんだ。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
水底のその欠擂鉢、塵芥ちりあくた襤褸切ぼろぎれ、釘のおれなどは不残のこらず形を消して、あおい潮を満々まんまんたたえた溜池ためいけ小波さざなみの上なる家は、掃除をするでもなしに美しい。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あめかぜかみなりの、ものすごい一でした。そのけはなれたときに、ながれのみず満々まんまんとして、きしひたして、はるひかりけて金色こんじきかがやいていました。
縛られたあひる (新字新仮名) / 小川未明(著)
僕は、お前のひたいにキスしたんだ。それに、にんじんは、あの年で、もう邪気じゃき満々まんまんなもんだから、それが純粋な、清浄潔白しょうじょうけっぱくな接吻で、父親が子供にする接吻みたいなものだってことがわからないんだ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
頭の頂辺てっぺんから足の爪先つまさきまで慾気よくけ満々まんまんとして寸分のタルミも無い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
船は、その翌日、闇夜あんやにまぎれて、さかいの沖から、ふたたび南へむかって、満々まんまんをはった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、——ことわざに、火事の折から土蔵の焼けるのを防ぐのに、大盥おおだらい満々まんまんと水をたたへ、蝋燭ろうそくを点じたのをの中に立てて目塗めぬりをすると、壁をとおして煙がうちみなぎつても、火気を呼ばないで安全だと言ふ。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
雲井くもいにあらそう両童子りょうどうじを乗せて、わしはいましも満々まんまんたる琵琶びわの湖水をめぐっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、槍を持ったなと思う瞬間、微笑ましい光景などは消し飛んで、兄弟の掛り合うはげしい気声は、朝から続いて惰気だき満々まんまんだった大人おとなどもの試合のどれよりも真剣で凄まじくさえあった。
剣の四君子:04 高橋泥舟 (新字新仮名) / 吉川英治(著)