泥濘ぬか)” の例文
半七は足もとに気をつけながら、大根卸しのように泥濘ぬかっている雪解け路を辿ってゆくと、二人の影は辰伊勢の寮の前で止まった。
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
これはうれしい。はだの細かな赤土が泥濘ぬかりもせず干乾ひからびもせず、ねっとりとして日の色を含んだ景色けしきほどありがたいものはない。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二年ばかり前まできびの葉の流れていた下田端へでたが、泥濘ぬかった水溜りに敷き込んだ炭俵すみだわらの上を踏むと、ずぶりと足の甲へまで泥水が浸った。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
あるあきあさのこと、イワン、デミトリチは外套ぐわいたうえりてゝ泥濘ぬかつてゐるみちを、横町よこちやう路次ろじて、町人ちやうにんいへ書付かきつけつてかねりにつたのであるが
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
午後に、種夫や新吉は一人ずつ下婢おんなに連れられて、町の湯から帰った。銀造も洗って貰いに行って来た。お雪はかさをさして、しまいに独りで泥濘ぬかった道を帰って来た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
道が泥濘ぬかっていた。寂しい空しい心地でまた帰ってくると、自分一人になるのが堪らなく佗しかった。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
が、道は思いのほか泥濘ぬかっている。馬の睫毛まつげまで濡れしずくであった。全軍の将士は黙りこくったまま、夜来の雨とこの道をおかして、蕭条しょうじょうといま坂本までたどりついた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雨上りの日で、そこらあたりはサヨの靴が吸いとられそうに赭土あかつち泥濘ぬかっているのである。
朝の風 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
泥濘ぬかツた路をベチヤンクチヤン、人通の少ない邸町から==其處には長い土塀が崩れてゐたり、崩れた土塀の中が畑になツたりしてゐる==横町へ出て、横町から大通へ出る。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
泥濘ぬかりたる、道を跣足はだしの子供らは、揃ひも揃ひし、瘡痂かさぶた頭、見るからに汚なげなるが、人珍らしく集ひ来て、人力車の前後に、囃し立つるはさてもあれ、この二三町を過ぎ行くほどは
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
そのうえに、路がだんだん泥濘ぬかってきて、一歩力を入れてのぼると、二歩ズルズルと滑りおちるという風だった。それをそば棒杭ぼうぐいつかまってやっと身体を支え、ハアハア息を切るのだった。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
夏の眞盛りの今でさへ、泥濘ぬかつて、水がぴちや/\搖れてゐた。こゝで私は二度倒れた、けれどもまたその都度つど立ち上つては身内みうちの力を掻き集めた。この燈火ともしびは私のたつた一つの頼りない希望なのだ。
あるあきあさのこと、イワン、デミトリチは外套がいとうえりてて泥濘ぬかっているみちを、横町よこちょう路次ろじて、町人ちょうにんいえ書付かきつけってかねりにったのであるが
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
裏通りは大分泥濘ぬかっていた。私達は、肩を竝べるようにして歩いた。
運命のままに (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
車に乗るときどんよりした不愉快な空を仰いで、風の吹く中へ車夫をけさした。路は歯の廻らないほど泥濘ぬかっているので、車夫のはあはあいう息遣いきづかいが、風にさらわれて行く途中で、折々余の耳をかすめた。
三山居士 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
道はひどく泥濘ぬかっていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みち泥濘ぬかつてゐるとふのに。』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
みち泥濘ぬかっているとうのに。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
戸外そと泥濘ぬかっておりましょう。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
戸外そと泥濘ぬかつてりませう。』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)