波頭なみがしら)” の例文
ただ波頭なみがしらしろえるかとおもうとえたりして、渺茫びょうぼうとした海原うなばらいくまんしろいうさぎのれがけまわっているようにおもわれました。
黒い旗物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)
『吉野』や『千種』はどうしたかしら? と思って、右舷うげんの方を見ると、白い波頭なみがしらがはてしもなくつづいて、さがす『吉野』らの影もない。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
ところどころに波頭なみがしらがたつ。その海が前方に迫るに従って海中の岩礁がんしょうに砕けてしぶきをあげる。更に前景には大きな岩礁が横たわり突き出ている。
浪打際なみうちぎは綿わたをばつかねたやうなしろなみ波頭なみがしらあわてて、どうとせては、ざつと、おうやうに、重々おも/\しう、ひるがへると、ひた/\と押寄おしよせるがごとくにる。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
荒海の衝立、怒り狂う紺青こんじょう波頭なみがしらを背にして、小袖の前を掻き乱したまま、必死の笑いに笑い狂う美女の物凄さ。
その間、ダネイは彼女の子供を胸に抱きしめて、今に大きな波が、その泡立った波頭なみがしらを彼等二人の上にぶっつけて来やしないかと、びくびくしていました。
彼のシャツ、カラー類は、靴下と釣合うほどの上等なものではなかったが、近くの渚に寄せて砕ける波頭なみがしらか、海上遠くで日光にきらきらと光っている帆影ほどに白かった。
雪のために薄くぼかされたまっ黒な大きな山、その頂からは、火が燃え立つように、ちらりちらり白い波頭なみがしらが立っては消え、消えては立ちして、瞬間ごとに高さを増して行った。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
波頭なみがしらが砂浜をはい上がって引いたすぐあとの湿った細砂の表面を足で踏むと、その周囲二三尺ほどの所が急にすうとかわくが、そのまま立ち止まっていると、すぐにまた湿って来ます。
夏の小半日 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
桜や松や梧桐ごどうや梅や、そういう植え込みの間々に、泉水、土橋、築山、ちん、別殿などがしつらえてあり、ほそぼそと灯された石燈籠のに、盛りの萩の白い花が、波頭なみがしらのようにおぼめいて見え
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かくて沸騰せる波頭なみがしらは「ざつくろん——」と長く引いて碎ける。
海郷風物記 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
白い波頭なみがしらとが、灰色の海面うみづらから迫つて来る。
詩集夏花 (新字旧仮名) / 伊東静雄(著)
荒海の衝立、怒り狂ふ紺青こんじやう波頭なみがしらを背にして、小袖の前を掻き亂したまゝ、必死の笑ひに笑ひ狂ふ美女の物凄さ。
浪打際なみうちぎわ綿わたをばつかねたような白い波、波頭なみがしらあわを立てて、どうとせては、ざっと、おうように、重々おもおもしゅう、ひるがえると、ひたひたと押寄せるが如くに来る。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ああ、一たび怒れば海神かいじんおののく『富士』よ。ただこの一回の砲撃で、敵の四機は影もなし。見えるものはただ白い波頭なみがしら、聞えるものはただ黒潮の高鳴たかなりである。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
しかし波はそれを上下にゆりうごかして、泡立った波頭なみがしらがその胴にぶっつかってり上がるだけで、しぶきは決してそのお椀の縁を越えることはありませんでした。
北の海の方を見ると、ただ白く波頭なみがしらが躍っていた。空は暗く、悪魔が住むように思われた。林の頂にさえぎられ、山の鼻に隠れてその暗い空も、鉛色をした海も一部しか見えない。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこには、無数むすうしろいうさぎが、けているように、波頭なみがしらひかってえるばかりでした。
海の踊り (新字新仮名) / 小川未明(著)
波頭なみがしら、雲の層、かさな蓮華れんげか、象徴かたどった台座のいわを見定めるひまもなしに、声とともに羽織の襟を払って、ずかと銅像の足の爪を、烏のくちばしのごとく上からのぞかせて、真背向まうしろに腰を掛けた。
あれ/\、其の波頭なみがしらたちま船底ふなぞこむかとすれば、傾く船に三人が声を殺した。途端に二三じゃくあとへ引いて、薄波うすなみ一煽ひとあおり、其の形に煽るやいなや、人の立つ如く、空へおおいなるうおが飛んだ。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あれあれ、その波頭なみがしらがたちまち船底をむかとすれば、傾く船に三人が声を殺した。途端に二三尺あとへ引いて、薄波を一あおり、その形に煽るや否や、人の立つごとく、空へおおいなるうおが飛んだ。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)