油気あぶらけ)” の例文
旧字:油氣
その油気あぶらけのないこわい髪の毛が、どういう訳か、頭の真中で立派に左右に分けられている様を、絶えず眼の前に浮べた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
油気あぶらけも無く擦切るばかりの夜嵐にばさついたが、つやのある薄手な丸髷まるまげがッくりと、焦茶色の絹のふらしてんの襟巻。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
にぶい声をして、土間の左側の茶の間から首を出したのは、六十か七十か知れぬ白髪しらが油気あぶらけのない、火を付けたら心よく燃えそうに乱れ立ったモヤモヤ頭な婆さんで
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
第十 油揚あぶらげ飯 は無造作むぞうさなもので、先ずお豆腐の油揚へ熱湯にえゆをかけて油気あぶらけを取ります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
夫の帰った物音に引窓からさす夕闇ゆうやみの光に色のない顔を此方こなたに振向け、油気あぶらけせた庇髪ひさしがみ後毛おくれげをぼうぼうさせ、寒くもないのに水鼻みずばなすすって、ぼんやりした声で、お帰んなさい——。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この梃子てこようのものは、五雄蕊ゆうずい中の下の二雄蕊ゆうずいから突き出たもので、昆虫のくちばしがこれにれてそれを動かすために、雄蕊ゆうずいやくが動き、そのやくからさらさらとした油気あぶらけのない花粉が落ちて来て
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
とちをひろひて山よりかへりしといふ娘を見るに、髪は油気あぶらけもなくまろめつかねたるをにてひ、ふるびたる手拭てのごひにて頭巻はちまきをなし、木綿袷もめんあはせあかづきたるがつねなみより一尺もみじかきに
三四郎は此機会を利用して、丸卓まるテーブルわきを離れて、美禰子のそば近寄ちかよつた。美禰子は椅子の脊に、油気あぶらけのないあたまを、無雑作にたせて、つかれたひとの、身繕みづくろひこゝろなき放擲なげやり姿すがたである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
国芳画中の女芸者は濃く荒く紺絞こんしぼり浴衣ゆかたの腕もあらはに猪牙の船舷ふなべりひじをつき、憎きまであだツぽきそのおとがいささへさせ、油気あぶらけ薄きびんの毛をば河風の吹くがままに吹乱ふきみださしめたる様子には
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
美禰子は椅子の背に、油気あぶらけのない頭を、無造作に持たせて、疲れた人の、身繕いに心なきなげやりの姿である。あからさまに襦袢じゅばんえりから咽喉首のどくびが出ている。椅子には脱ぎ捨てた羽織をかけた。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)