-
トップ
>
-
此家
>
-
このいへ
積薪私に
怪む、はてな、
此家、
納戸には
宵から
燈も
點けず、わけて
二人の
女、
別々の
室に
寢た
筈を、
何事ぞと
耳を
澄ます。
○かくて夜も
明ければ、村の者どもはさら也
聞しほどの人々
此家に
群り来り、此上はとて
手に/\
木鋤を
持家内の人々も
後にしたがひてかの
老夫がいひつるなだれの処に
至りけり。
至極そゝくさと
落つき
無きが
差配のもとに
來りて
此家の
見たしといふ、
案内して
其處此處と
戸棚の
數などを
見せてあるくに、
其等のことは
片耳にも
入れで、
唯四邊の
靜とさはやかなるを
喜び
「亡くなつた
此家の御主人は、何處の御藩中でした」
箪笥長持はもとより
有るべき
家ならねど、
見し
長火鉢のかげも
無く、
今戸燒の四
角なるを
同じ
形の
箱に
入れて、これがそも/\
此家の
道具らしき
物、
聞けば
米櫃も
無きよし、さりとは
悲しき
成ゆき