止度とめど)” の例文
だれにいうともない独言ひとりごとながら、吉原よしわらへのともまで見事みごとにはねられた、版下彫はんしたぼりまつろうは、止度とめどなくはらそこえくりかえっているのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
銀座は空いた円タクが止度とめどもなく通る。新太郎君は車体の新しいのを物色するため三四台り過ごしてから頷いた。円タクはくしゃみをしても止まる。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
実地に就てのやくに立つ考案かんがえは出ないで、こうなると種々な空想を描いては打壊ぶちこわし、又た描く。空想から空想、枝から枝がえ、ほとんど止度とめどがない。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
渠は恁麽こんな事を止度とめどもなく滅茶苦茶に考へ乍ら、目的あてもなく唯町中を彷徨うろつき𢌞つて居た。何處からどう歩いたか自身にも解らぬ。洲崎町の角の煙草屋の前には二度出た。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
図に乗って止度とめども無しに書きつづけているうちに、第十一編を名残として嘉永二年に作者は死んだ。
自来也の話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こらえていた気分が張り裂けると、嗚咽の声と涙とが止度とめどなく送り出て来た。彼女は身を投げ出して泣き伏した。咽び上げる度に、束髪の櫛の宝石玉が、電気の光りに輝いた。
二つの途 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
一列に店先に並んだ端の方の二台の鏡台に向って鬢のもつれを撫でつけながら、若い菊龍と富江は止度とめどなく湧いてくる笑いに全身を波立たせて共通な何かを話しあっていた。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
とにかく三十も越えて男一人前にひげまで生えて居るような奴が、声をあげて止度とめどもなしにあんあんと泣く、その泣面なきつらと来たらば醜いとも可笑おかしいとも言いようがないのである。
病牀苦語 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
暑い日がカンカン照りつけるので、止度とめどなく汗が流れる、私は先に立ってグングン急いだ。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
それからそれ止度とめどなく想出されて、祖母が縁先に円くなって日向ぼッこをしている格構かっこう、父が眼も鼻も一つにしておおきくしゃみようとする面相かおつき、母が襷掛たすきがけで張物をしている姿などが
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
又空が雪を止度とめどなく降らす時などは、心の腐るような気持になることがないではないけれど、一度春が訪れ出すと、その素晴らしい変化は今までの退屈を補い尽してなお余りがある。
北海道に就いての印象 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
辷り出したように止度とめどのなくなった彦太郎は、なおもはずんだような口調で、この間こんなことがありました、去年のことです、まあ聞いて下さい、別に特別に覗くわけではないのですが
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
俺は何故か笑いが止度とめどもなくこみあげて来るのを辛抱できなかったのだ。
(新字新仮名) / 梅崎春生(著)
そして二人とも、止度とめど無く笑つた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
昨日きのう文三にいじめられた事を、おまけにおまけを附着つけてベチャクチャと饒舌しゃべり出しては止度とめどなく、滔々蕩々とうとうとうとうとして勢い百川ひゃくせんの一時に決した如くで、言損じがなければたるみもなく
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
山が春霞はるがすみの中にぽうと融け込んで、其雪だけがほのかに白く空に浮び出ている時など、不思議な空想が止度とめどなく湧いて来た。一度はそれを探って見たいと思いながらまだ果されずにいる。
思い出す儘に (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
熱い涙がほろほろこぼれる、手の甲でこすっても擦っても、止度とめどなくほろほろこぼれる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
日射が強くなって汗が止度とめどなく流れる。先に立った丸山警部補は、路傍に横たわっている蝮蛇まむしを見付けて、一撃の下に撲殺してしまった。此辺は蝮蛇が多いそうであるが、其後は見当らなかった。