早合点はやがてん)” の例文
旧字:早合點
ここが近いからこの辺から渡って来たろうなどと、まるで飛石伝とびいしづたいのような早合点はやがてんをする人を、笑ってもよいことになるのである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかし十六の私は文子がつんとしたは、私の丁稚姿のせいだと早合点はやがてんしてしまい、きゅうに瀬戸物町というものがいやになってしまった。
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
物の理窟りくつのよく分かる所にあつまると早合点はやがてんして、この年月としつきを今度こそ、今度こそ、と経験の足らぬ吾身わがみに、待ち受けたのは生涯しょうがいの誤りである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お前はいつも気がみじかくて早合点はやがてんすぎるよ。お前ばかりに、卵をとるために海を泳がせたり、何かいやな目でながめられたりさせやしない。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこで同情して、男が誘って伯父おじの処へ泊めてもらおうと行く、意気な伯父さん早合点はやがてんで、「よく取ったよく取った」……こんなことで二人の縁が結ばれる。
彼はひどいつんぼなので、早合点はやがてんの人は彼を唖者おしだと思い込み、それより落付いた人も彼を薄鈍物うすのろだといった。
相手が、あのまま思い切ったと思ったのは、やっぱり自分の早合点はやがてんだったと瑠璃子は思った。求婚が一時の気紛きまぐれだと思ったのは、相手を善人に解し過ぎていたのだ。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
私は花が好きですといっても、聞く人によりてはこれを悪意に解し、華美を好むという印象いんしょうを受けるものもあり、はなはだしきはものいう花と早合点はやがてんする人さえある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
巳代公がうなずいたと云っておさまって居ると、巳代公は一時間っても二時間経ってもやって来ぬので、往って見ると自分の事をして居たので、始めてとめやの早合点はやがてん
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
作者は日本語を使つて今茲に法廷の模様を写生しつつあるのだから、日本の裁判官の審理振を叙するものとして読者は迎へるかもしれないが、それは読者の早合点はやがてんである。
公判 (新字旧仮名) / 平出修(著)
U氏が最初からの口吻くちぶりではYがこの事件に関係があるらしいので、Yが夫人の道にはずれた恋の取持ちでもした、あるいは逢曳あいびきの使いか手紙の取次でもしたかと早合点はやがてんして
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
私はこれを読んで、いきなり唐土もろこし豆腐屋とうふやだと早合点はやがてんをした。……ところうでない。
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
私は実は早合点はやがてんをして竹内さんの好みで古代の服装でも真似まねて町内の行列へ這入ったのだと思ったことで、竹内さんが学校の教師になっていられることなどは少しも知りませんのでした。
奥中将をう 中将の居らるる所までは二マイルほどしかないのですが、私がチベット服を着けて居るものですから荷持は早合点はやがてんをして、ジャパニーズ・ゼネラルの居る所へと吩付いいつけたに拘わらず
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
是はいずれもみな信仰に伴なう伝説をもつ樹木巌石の所在地であろうと早合点はやがてんをして、『郷土研究』に発表してしまった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そう早合点はやがてんに賛成されては困る。先例のない社会に生れたものは、自から先例を作らねばならぬ。束縛のない自由をけるものは、すでに自由のために束縛されている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところで、これから述べてゆくの物語の中には、日本人の名前ばかりが、ズラズラと出てくるのだが、読者諸君は、それ等をことごとしんの日本人だと早合点はやがてんされてはいけない。
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さて、其が過失あやまり。……愚僧、早合点はやがてんの先ばしりで、思ひけない隙入ひまいりをした。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と大江山課長は自分のことが問題にされているんだと早合点はやがてんして、きまにいった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
神さまでも手古てこずるくらい纏まらない物体だ。しかし自分だけがどうあっても纏まらなく出来上ってるから、他人ひとも自分同様しまりのない人間に違ないと早合点はやがてんをしているのかも知れない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夜しか出て来ぬから夜物はわかっているようだが、それが早合点はやがてんの一種であったことは、簡単に証明し得られる。すなわち鼠の他にもヨモノと呼ばれているものが、まだ幾つも有るのである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
主人はようやく刑事が踏み込んだ理由が分ったと見えて、頭をさげて泥棒の方を向いて鄭寧ていねいに御辞儀をした。泥棒の方が虎蔵君より男振りがいいので、こっちが刑事だと早合点はやがてんをしたのだろう。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
天のめぐみだとよろこんだのは、怪塔王の早合点はやがてんのようでありました。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
余も至極しごく御同意である。しかし御同意と云うのは大学が結構な所であると云う事に御同意を表したのみで、新聞屋が不結構な職業であると云う事に賛成の意を表したんだと早合点はやがてんをしてはいけない。
入社の辞 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕の気の短いことは誰でも知っている。その代りあきらめのいいことはまず誰にも負けないし——といってこれは余り自慢になる性格じゃないが——しょっちゅう早合点はやがてんをして頭をいてばかりいるのだ。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ただ僕だけは、——こういうとまたあの問題を持ち出したなと早合点はやがてんなさるかも知れませんが、僕はもうあの事について叔父さんの心配なさるほど屈托くったくしていないつもりですから安心して下さい。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)