手落ておち)” の例文
誰一人だれひとりものもなかろうとおもったのが、手落ておちといえばいえようが、それにしても、しん七があとってようなぞとは、まったくゆめにもおもわなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
流石さすがに悪魔式の明敏なアタマを持っておりましたAも、ここで一つの小さな……実は極めて重大な手落ておちをしている事に、気が付かないでいるのでした。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「お嬢さま。しんぱいいりません。よいドクトルをしっていますから、その人にみせましょう。わたくしが、手落ておちなくしますから、しんぱいいりません」
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
無論その様な手落ておちのあろう筈もなく、それに、写真屋の台帳には辻堂という名前は一人もないことも分った。
幽霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
画工ゑかきはね、こゝろくんぢやない。こゝろそと見世みせしてゐるところくんだから、見世みせさへ手落ておちなく観察すれば、身代しんだいおのづからわかるものと、まあ、さうして置くんだね。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一つは兄の臨終りんじうに間に合はなかつたことが、通知に手落ておちでもあつたやうに、彼が考へてゐるのだと思はれてゐるらしかつた。勿論彼は兄の生前に行きあはさなかつた事を残念に思つた。
(新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
ただそのさいなにより好都合こうつごうであったのは、ひめ父君ちちぎみめずらしく国元くにもとかえってられたことで、御自身ごじしん采配さいはいって家人がじん指図さしずし、心限こころかぎりの歓待もてなしをされために、すこしの手落ておちもなかったそうでございます。
しかしいろいろな手不足のため、心配していながらも、博士の保護を実践しなかったことは確かに手落ておちである。
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「それがようござる。およばずながら愚老ぐろう看護かんごして以上いじょう手落ておちはいたさぬかんがえじゃ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
異存いぞんのあろうはずもなく、本読ほんよみもんで、いよいよ稽古けいこにかかった四五にちは、をつめても、つぎひかえて、ちゃ菓子かしよと、女房にょうぼうつとめに、さらさら手落ておちはなくぎたのであったが
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)