戒名かいみょう)” の例文
日野家之墓と大きく彫られてその側面には戒名かいみょうの下に正しく俗名日野涼子何年何月歿享年二十九歳と彫られてあるのが透し見られた。
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
それは父親が死んだ時からの計画であったらしく、父親の石碑は家柄に不似合な小さいもので、石碑の真中に戒名かいみょうが刻んであった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
菩提寺の過去帳に宮本家の血縁者の歿年ぼつねん戒名かいみょうなどを発見して、その写しを今もこの和尚が保存している筈ですが——というのであった。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寺の名と同じ戒名かいみょうを刻んだ先祖の墓の前を通り過ぎて、墓地の出はずれまで行った。その眺望の好い、静かな一区域は、父母の眠っている場所だ。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ありゃいけないね、あんまりゴテゴテの戒名かいみょうなんぞつけたのは。子孫へ不孝っていうもんだ——なにってやがる、さんざこうこのように食っといて——
戒名かいみょうは何とか言ったな?……白雲院道屋外空居士か……なるほどね、やっぱしおやじらしい戒名をつけてくれたね」
父の葬式 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
悪い女のために戒名かいみょうを一つ附けてやって下さいというから、わしは、よしよし、悪い女ならば悪女大姉あくじょだいしとつけてやろうと言うたら、有難うございます
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
立って行って戒名かいみょうを読む気にもならなかった健三は、やはりもとの所にすわったまま、黒塗くろぬりの上に金字で書いた小形の札のようなものを遠くから眺めていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから……水中に物あり、筆者に問えば知らずと答うと、高慢な顔色かおつきをしてもいんですし、名を知らない死んだ人の戒名かいみょうだと思っておがんでもいんですよ。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
六畳の間に据えた仏壇には、先祖の位牌と、死んだ女房の新しい戒名かいみょうが飾られてあるらしく、貧しいうちにも、何か折目の正しさが、人に迫るものがあるのです。
精密な記憶が家に伝わっており、いつのころよりか不滅院量外保寿大姉という戒名かいみょうをつけてまつっていた。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「や、戒名かいみょうの下に記した此の名は、ととさんと娘を殺した悪人の名、それではもう此の世にいないのか」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
戒名かいみょうのあるべき中央の部分が空白になっていて、そのわきのところに、小さく「昭和十三年四月十三日歿ぼつ」とだけ、今のみを入れたばかりのように、クッキリと鮮かに刻んであった。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その代り、寝覚めの悪い気持がしたので、戒名かいみょうを聞いたりしてたなに祭った。先妻の位牌いはいが頭の上にあるのを見て、柳吉は何となく変な気がしたが、出しゃ張るなとも言わなかった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
みんな戒名かいみょうで呼び合うのが習慣になっているんだ。銀行泥棒上りが銀州、強盗前科が腕公わんこう、女殺しがエテ公、凡クラがボン州……モウ暫くすると君だって戒名を附けられるかも知れない。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
甚麼どんな事ですか、出来る事なら、何でもやりましょう。」と言うと、「実はその、今日墓石を建てて貰った。ところがその戒名かいみょうの字が一字違っている。『本』という字が『木』になっている。 ...
□本居士 (新字新仮名) / 本田親二(著)
「だァれがしるす、戒名かいみょうをしるす」
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
と仰っしゃっても、公儀へのお届けはすみ、お目付、寺社奉行への手続きもとどこおりなく、愚老の菩提寺に埋葬して、戒名かいみょうまでついてしまっている者を
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「しかし猫でも坊さんの御経を読んでもらったり、戒名かいみょうをこしらえてもらったのだから心残りはあるまい」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「この戒名かいみょうは万福寺を建立こんりゅうした記念でしょう。まだこのほかにも、村の年寄りの集まるところがなくちゃ寂しかろうと言って、薬師堂を建てたのもこの先祖だそうですよ。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
発句の会、ああ、そうか。源、何、何とか云ったな、その戒名かいみょう、いや俳名よ。待ちねえ、お前なんざあ俳名よりその戒名の方をつけるが可いぜ、おいらが一番下駄の火葬というのを
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そう思って私どもはそれ以来、名前もわからず所もわからぬままに、御住持にその御婦人の戒名かいみょうを書いていただいて、阿母の位牌に並べてこうやって朝晩拝んでいるのでございます。
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
田中から聞いた、彼女の優しい戒名かいみょうを刻んだ石碑せきひの前に、花を手向たむこうをたいて、そこで一こと彼女に物が云って見たい。そんな感傷的な空想さえ描くのでした。無論これは空想に過ぎないのです。
モノグラム (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「悪女大姉」の戒名かいみょうは、尋常の戒名ではありません。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
仏様の戒名かいみょうより外には、何にもありません。
この小谷の奥曲おくまがり谷に、かねて和尚からいただいておいた戒名かいみょうを刻んだ石碑が建っておる。あれを、ご苦労ながら、城中へお運びくださるまいか。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかる後、また死んだもののために小さな位牌いはいを作った。位牌には黒いうるし戒名かいみょうが書いてあった。位牌のぬしは戒名を持っていた。けれども俗名ぞくみょう両親ふたおやといえども知らなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
新盆にいぼんに、切籠きりこげて、父親おやじと連立って墓参はかまいりに来たが、その白張しらはりの切籠は、ここへ来て、仁右衛門爺様じいさまに、アノ威張いばった髯題目ひげだいもく、それから、志す仏の戒名かいみょう進上しんじょうから、供養のぬし、先祖代々の精霊しょうりょう
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このに臨んで、くどくどと、返らぬ者どもの戒名かいみょうを読み立てるな! 聞きたいのは、今の戦況だッ。敵は、どこまで来ておるか。どこが、血戦の中心か。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっとも御蔭で先祖代々の戒名かいみょうはことごとく暗記している。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
戒名かいみょう、」
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)