慧敏けいびん)” の例文
しかし慧敏けいびんで健康な資質の人間は太陽が明らかにのぼったことを忘れない。われらの偏見をすてるにはおそすぎるということはない。
よく観察すると、そういう女らは慧敏けいびんで、鋭利で、万事にゆきわたり、他の女よりもさらに男らしく、それでもまたさらに女性であった。
近眼鏡の奥には慧敏けいびんな目がぎろりと光っているが、そこにも人なつこいところが見える。和尚と呼ぶのがあながち不適当とも思われない。
技法ぎはふ尖鋭せんえい慧敏けいびんさは如何いかほどまでもたふとばれていいはずだが、やたらに相手あひて技法ぎはふ神經しんけいがらして、惡打あくだいかのゝしり、不覺ふかくあやまちをとが
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
「イヤース」と、ロンドンのシチーなまりを気取って返事をする慧敏けいびんな義光ちゃんのいつもの声が聞えます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ポケットの中に両手を握りしめ、小鳥のように首を振り、下脣したくちびるをつき出して慧敏けいびんらしいふくつらをした。
そのかんがえ慧敏けいびんなことと、その論鉾の巧みなことと、その綜合的の方法、などの力に富んでいることは驚くべきものであって、今でも繰返して読むだけの価値ねうちはたしかにあるものである。
今世風の教育 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
奄美大島あまみおおしま民謡大観』を読んでみると、島の宴飲には最も即興の歌が珍重せられ、殊に男女の間には歌競うたきそいのざれがあって、返歌の慧敏けいびんなるものが永く異性の愛好をつないだことを述べている。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼方此方あっちこっち鮮血にさえ彩られた、島幾太郎こと兇賊の首領大谷千尋、しきりに警官隊の中を漁って居りましたが、やがて、文士宇佐美六郎とは似もつかぬ、秀俊慧敏けいびんな名探偵、花房一郎の顔を見ると
青い眼鏡 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
かの慧敏けいびんなる商人の、称して阿呆あはうといふでもあらう底のものとすれば
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
可能なる事を考え得るさえも、不可思議というべきに、更にこれを実地に当てめて、直ちに事件の裡面の真相を穿うがたんと試みたるが如きは、真に驚くべき事実にして、仮令たとい同婦人が如何に慧敏けいびん
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
余は彼の目の底に一種の慧敏けいびんな光が有るので看て取った。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
慧敏けいびんな直義である。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
フランスは慧敏けいびんだと自称してるくせに、滑稽こっけいにたいしては少しも感じがないということを、クリストフは見て取って驚いた。
あわれと思うもののすべてを会得えとくしたのみか、さらに同じ技巧を借りて自身の内にあるものを、いろどり形づくり説き現わすことを得たのは、当代においてもなお異数と称すべき慧敏けいびんである。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ソフトをって、顔を一つ撫でると、慧敏けいびんはやぶさのような男。
女記者の役割 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
彼がもしいっそう慧敏けいびんであったなら、それらの攻撃の異常な邪悪さのうちに、友人の爪先つまさきを認め得たはずである。
それはたぶん荒井氏が慧敏けいびんで、かつ時々は両国の美術倶楽部などに行かるるために立った噂であろう。東北地方で参考にするなら、何も清辰の輩を煩わさずとも、付近に若駒の糶庭せりにわというものがある。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
鐘の音の歌に夢想し——(彼女も彼と同じく鐘の音が好きだった)——慧敏けいびんと温情とに満ちたうるわしい微笑を浮かべ、いつも流れ出さんばかりの涙——愛の涙、憐憫れんびんの涙、気弱な涙
二人とも——彼女はその慧敏けいびんさによって、彼は知能の代わりとなってる本能によって——等しく相手を見誤っていた。クリストフは、彼女の顔貌がんぼうなぞと頭脳生活の強烈さとに蠱惑こわくされていた。