しのび)” の例文
「これは自慢にはなりませぬが、私血統より慶長年間、高阪甚内と申す賊、三甚内の一人として出でしのびの術もて横行いたしました」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
初陣ういじんの此の若武者わかむしゃ、霧に打たれ、雨に悩み、妖婆ようばのために取つて伏せられ、しのびをプツツリ切つて
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
見て此品は一昨夜我等方へ盜賊たうぞくしのびいつぬすまれし娘がかんざしなり如何して手に入しやと問ければ與兵衞大に肝を潰し彼旅籠屋の客人きやくじんよりかひたりと答ふるに利兵衞はた横手よこて
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
島は、うき島、八十やそ島。浜は、長浜ながはま。浦は、おうの浦、和歌の浦。寺は、壺坂、笠置、法輪。森は、しのびの森、仮寝うたたねの森、立聞たちぎきの森。関は、なこそ、白川。古典ではないが、着物の名称など。
古典竜頭蛇尾 (新字新仮名) / 太宰治(著)
敵前間近く冑のしのびの緒を締め、鎗をしごいて立った兵等の勇気は百倍した。
真田幸村 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
種彦は最初一目見るが早いか、しのび入ったの男というはほど遠からぬ鳥越とりごえに立派な店を構えた紙問屋の若旦那で、一時おのれの弟子となった処から柳絮りゅうじょという俳号をも与えたものである事を知っていた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
学者でもあるし茶人でもあるし、伊賀流のしのびもよくするし、侠気もあれば気概もあったが、放浪性に富んでいて、物に飽き易くて辛抱がなくて、のりに附くことが出来なかった。
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
悪心むらむらとおこり、介抱もせず、呼びもけで、わざ灯火ともしびほのかにし、「かくてはが眼にも……」と北叟笑ほくそゑみつゝ、しのびやかに立出たちいで、主人あるじねや走行はしりゆきて、酔臥ゑひふしたるを揺覚ゆりさまし
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
形勢非となったので憤然として母衣を脱して家来にわたし、わが子信豊に与えて遺物かたみとなし、兜のしのびの緒をきって三尺の大刀をうちふり、群がり来る越兵をきりすて薙たおし、鬼神の如く戦ったが
川中島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
滝太郎とささやき合い、かかることにれてしのびの術を得たるごとき両個の人物は、ものおもうお雪が寝起ねおきの目にも留まらず、垣をくぐって外へ出ると、まだ閉切ってある、荒物屋の小店の、くすぶった
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
万歳々々ばんざいばんざい、今夜おしのびか。)
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)