待兼まちか)” の例文
やがて退しさりて、つかへ、は、は、申上まをしあたてまつる。おうなんとぢや、とお待兼まちかね。名道人めいだうじんつゝしんで、微妙いみじうもおはしましさふらふものかな。
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
待兼まちかねて問合わせの手紙まで出したのだが、それにも何の返事もなく、約束の日曜日は、いつの間にか過去すぎさってしまった。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
待兼まちかねたるは妻君よりも客の大原、早く我が頼み事を言出さんと思えども主人の小山たずさえ来れる大荷物をひらくにせわしくて大原にまで手伝いを頼み
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
折々更代こうたいに入っていて、一方が戻って来るのを待兼まちかねるようにして、飛んで行くのが雄であった。気を付けて見ると、この方が少しばかり尾が太い。
さう思へばさば/\して別の事もなく普通の月日に戻り、毎日三時のお茶うけも待遠しいくらゐ待兼まちかねて頂きます。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
そこだ! と先生は飛上ってつくえを打った。堪えかねるほど待兼まちかねた答を、予期しないアンポンタンから得たので、先生の褒めかたは気狂いじみてたほどだった。
殿下も待兼まちかねておはすればと促されて、まだ大尉たいいになりてほどもあらじと見ゆる小林といふ少年士官、口にくわへし巻烟草まきタバコ取りて火鉢ひばちの中へ灰振り落して語りは始めぬ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
と息もかずに饒舌しゃべるのを、私も固唾かたづを呑んで聞澄ききすましていたが、はなしおわるを待兼まちかねて
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
受話器を耳にあててうや否や、向うは待兼まちかねていたように妙に喉へ詰った囁声ささやきごえ
劇団「笑う妖魔」 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
日出雄少年ひでをせうねんあいらしき姿すがた待兼まちかねつゝ。
取次に出た書生が、名刺を握って、何かしら勢込いきおいこんで主人の居間に入って来た。見ると、その名刺には、待兼まちかねた「三笠龍介」の名が大きく印刷してあった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
で、髯旦ひげだんの、どぶりと徳利とくりいてるのを待兼まちかねた、みぎ職人しよくにん大跨おほまたにひよい、とはひると
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「どうしたんだろう」一人が待兼まちかねたように云った。
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
恐らくこれは栗原さんの取って置きの話のたねで、彼は誰にでも、そうした打開うちあけ話をしても差支さしつかえのない間柄あいだがらになると、待兼まちかねた様に、それを持出すのでありましょうが、私もある晩のこと
モノグラム (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
紫玉は待兼まちかねたやうに懐紙かいしを重ねて、伯爵、を清めながら、森のこみちきましたか、坊主は、といた。父も娘も、へい、と言つて、大方うだらうと言ふ。——う影もなかつたのである。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
待兼まちかねていた玉村氏は、直様すぐさまその小函を受取って蓋を開いた。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ははあ、御同伴おつれの奥さんがお待兼まちかねで。」
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また一羽が待兼まちかねてトンと下りる。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)