弊風へいふう)” の例文
ために、滔々とうとうと、軟弱な弊風へいふうがあったことも否めません。自力聖道門しょうどうもんが、絶対力をきずいたのは、そういう時代の反動でございました。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
多年土地の若いものゝ間に染み込んでいる弊風へいふう賭博とばく媾曳あいびきを、父親は眼の仇にして清掃を図った。父親は一方非常な飲酒家であった。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
もし反動がおそろしいの、騒動が大きくなるのと姑息こそくな事を云った日にはこの弊風へいふうはいつ矯正きょうせい出来るか知れません。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ふつうの家庭では、なにかの時だけ、儀式的なことに、無闇むやみと飾りたてたりしながら、平常はぞんざいにものごとを扱っている弊風へいふうがあるのを、私はどうもおもしろく思わない。
鍋料理の話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
是が博奕ばくちとか売春とかいう目に立つ弊風へいふうであるならば、むしろ自他ともに警戒したであろうが、それほど重きを置かれなくて、いつのまにか暗々裡あんあんりに入り込んでいた生活変化は
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
我々青年はまづこの弊風へいふうを打破しなければいかんです。僕はこの間博浪沙はくらうしや始皇帝しくわうていの車に鉄椎てつつゐを落させました。不幸にしてそれは失敗しましたが、まだ壮心が衰へた訳ではありません。
饒舌 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ところが近来は俳句仲間にもその弊風へいふうが盛んになつて送別ぢやの留別りゅうべつぢやの子が出来たの寿賀じゅがをするのと、その時々につけて交際のある限りはその句を請求する、それが何のためかと思ふと
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
弊風へいふう、という字を、美濃守は、宙に書いては消していた。
元禄十三年 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ふさげない事になつてにもにもまぬかれぬ弊風へいふうといふのが時世ときよなりけりで今では極点きよくてんたつしたのだかみだけはいはつて奇麗きれいにする年紀としごろの娘がせつせと内職ないしよくの目も合はさぬ時は算筆さんぴつなり裁縫さいほうなり第一は起居たちゐなりに習熟しうじよくすべき時は五十仕上しあげた
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
むしろ懐かしげに現在の藩の困窮だの、武士道と実生活の矛盾むじゅんだのそこから起る弊風へいふうだの……つい与右衛門も頷いてしまうし、彼も話しやめようとしない。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
苛烈かれつな破壊をやったように、近年の茶事流行の弊風へいふうに対しても、また、極端な強圧をやり出すのではないかと、世の茶道者流はみな怖れおののいたのであった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
決して、過去の史家にいわれたような弊風へいふうと悪質な生態が、当時の農村そのものであったわけではない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
奸佞かんねい讒訴ざんそ賄賂わいろ、警職の乱用、司法の私権化など、あらゆる悪が横行していたので、その弊風へいふうは、州や県の地方末端の行政面にも、そのまま醜悪を大なり小なりつつんでいた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、それに伴う多少の弊風へいふうも仕方のないお添え物とまず大きく呑みこんではいる。けれど歯も咀嚼そしゃくしようとせず、彼の消化器も絶対に拒否しているものがある。宗教と教育であった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまの元禄の江府こうふや、諸〻もろもろの小都市は、そうした弊風へいふうすさみきっていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(余は宗教を憎むのではない。誤った信仰を唾棄だきするのだ。信仰もよく導けばいいが、今のように、一般社会に及ぼす弊風へいふうの大や、朝廷をも動かす悪因習は、これを黙視しているわけにゆかない)
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いにしえ、道真公みちざねこうが、和魂漢才わこんかんさいとなえて、時人の弊風へいふうと、遣唐使けんとうしの制をいましめたことがあるが、唐風の移入も、西欧の舶載はくさいも、春なれば春風の訪れ、秋なれば秋風の湿しめり、この国の梅や桜の色は変らぬ。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)