ちっ)” の例文
彼は、そっと、人のいないのを見すまして、衣裳部屋に潜り込み、葉子のちっちゃい肉襦袢に、醜悪な顔を、うずめていた事もあった。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
あんなにちっぽけな、瘠せた小伜せがれであった浩が、自分より大きな、ガッシリと頼もしげな若者になっているのを、むさぼるように見ると
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
それにしても、あるかなきかの息をしながら身動もしないで、すやすや眠ってる赤児の存在が、可愛いいというよりも余りにちっちゃかった。
幻の彼方 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「なんや、こう、手に持って、パッと火のつく、ちっさな機械やったわ。煙草のみはるのに、煙管に、マッチとは違うた、その機械でつけはったでっしゃろ?」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
あの男も……惣吉様ちっせえだけんども怜悧りこうだから矢張やっぱり名残い惜がって、昨宵ゆうべおいらは行くのはいやだけんども母様かゝさまが行くから仕方がねえ行くだって得心したが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あの小僧はちっちゃくて容姿ようすいので毛唐の変態好色すけべえ連中が非常にくんだそうです。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
丑尾さんが着古した袖無そでなしのちゃんちゃんを着て、頭をちっちゃなおちごにっていたことと、それから、その日の小春の日影が実にうららかに暖かくのどかであったということだけである。
重兵衛さんの一家 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
三畳の窓をくぐって、ちっこい、庭境にわざかい隣家となりの塀から入ったな。争われぬもんだってば。……入った処から出て行くだからな。壁をって、窓をって、あれ板塀にひッついた、とかげ野郎。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ようがす、その香盒とやらの形はどんなものだと聞くと、直径さしわたし三寸ぐらいの丸いちっぽけなもので、黄金きんで出来ていて、曼陀羅とかお題目とか、むずかしいものが彫ってあるんだそうだ」
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二人くらべると私が如何いかにもちっぽけなように思われたので、今までの考をやめてしまったのです。そして文学者になりました。その結果は——分りません。恐らく死ぬまで分らないでしょう。
無題 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しっかりしろよ、なあ、ガスパール! あの可哀そうなちっちゃな玩具おもちゃの身にとってみれあ、生きてるよりはああして死ぬ方がまだしもましなんだ。苦しみもせずにじきに死んだんだからな。
まさかこのちっぽけな島、馬島うましまという島、人口百二十三の一人となって、二十人あるなしの小供を対手あいてに、やはり例の教員、然し今度は私塾なり、アイウエオを教えているという事は御存知あるまい。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「あはあ、なるほど、まだわからないんだな。ちっちゃいからな。」
「やあちっちゃい島があらあ」
五八「なに身い投るって、止しなせえ、止すがえよ、此んなちっけえとこ這入へえって死ねるもんじゃアねえ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
右の小僧按摩を——小一こいちと申したでござりますが、本名で、まだ市名いちなでも、斎号でもござりません、……見た処が余りちっこいので、お客様方には十六と申す事に、師匠も言いきけてはありますし
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ナニ、たかの知れた鍔の象眼、縁頭の朧銀が何だ、ちっぽけな金無垢……
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
男が先へひえっていりゃアを悪がってひえれめえから、ちっさくなってると、誰もいねえと思ってすっとひえって来ると、おらアこゝにいたよって手をつかめえて引入れると、おめえ来ねえかと思ったよ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)