“小舎(ごや)” の例文
旧字:小舍
「スパセニア嬢様の死体は、発電小舎(ごや)の近所から上がったでやすが、ジーナ嬢様の死体は、ついその辺から上がったでがして……」
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
小舎(こや)の外(そと)へ出(で)てからも、町(まち)の中(なか)を歩(ある)いても、この軽業(かるわざ)小舎(ごや)で鳴(な)らしている、ドンチャン、ドンチャンの音(おと)が耳(みみ)についたのでした。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
裾野の草が、人の軒下にはみ出るさびしい町外れとなって、板びさしの突き出た、まん幕の張りめぐらされた木造小舎(ごや)に、扶桑(ふそう)本社と標札がある。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
十日ばかり滞在したのち、李陵は旧友に別れて、悄然(しょうぜん)と南へ去った。食糧衣服の類は充分に森の丸木小舎(ごや)に残してきた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そうして昔の母屋を取払った遺跡(あと)が広い麦打場になっている下の段の肥料小舎(ごや)の前まで来ると、三人が向い合って立停って、小声で打合せを始めた。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
モーナルーダオの耕作小舎(ごや)には、人知れず数名の男たちが毎日のように集り、なにごとかを謀議しつづけていた。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
「そうだなあ、いよいよ家がこの近くに見つからなかったら、肥料小舎(ごや)でも何でもいいから、そこに泊ることにしよう。……とにかく探検しておくんだ。」
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
陶器の産地である有田へ着いたのは午頃(ひるごろ)だつた。谷川のへりの所々に石を搗(つ)き砕く水車小舎(ごや)の響きが聞えてゐた。河原に棄(す)て散らされた陶器の破片を私は珍らしく見ながら歩いた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
風車小屋だよりは、ぜいたく至極な物語りで、十二社の汚ない風車小舎(ごや)とはだいぶおもむきが違うのであろう。俳句でもつくってみたくなるけれど、どうも、川柳もどきになってしまう。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
たとえ食べものや寝所が欲しさに戸を叩いたとしても、牛小舎(ごや)の隅の藁床へなりと寝かしてくれたっていいじゃないか。犬に食わせる麺麭(パン)の片(かけ)らぐらい頒(わ)けてくれたってよさそうなものだ。
乞食 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
あたりはもうすっかり昏れてしまい、向う岸の灯がまばらに、ちらちらとまたたくように見えた。その渡しは六時が刻限なので、渡し小舎(ごや)も戸を閉めてい、河岸沿いの道にも通る人は殆んどなかった。
落葉の隣り (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
鶏小舎(ごや)の側(そば)に
都会と田園 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
その後(あと)で、兄(あに)は、物置(ものお)き小舎(ごや)にゆきました。そして、まったく忘(わす)れていた、昔(むかし)、地面(じめん)にたたきつけたくわを、うす暗(ぐら)い中(なか)から採(と)り出(だ)しました。
くわの怒った話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
水番小舎(ごや)の付近に繋留(けいりゅう)された小舟四隻に分乗して、湖心に漕(こ)ぎ出しましたが、湖底へ碇綱(いかりづな)を下ろす必要も何もありません。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
筑紫野を見晴らす大根畠と墓原の間の小径(こみち)の行止まりに、万延寺の本堂と背中合わせにして一軒の非人小舎(ごや)がある。
無花果の樹の根もとから、低く一直線に肥料小舎(ごや)までとんで行くと、まるで気でも狂ったように、けたたましく叫びたてながら、空に舞いあがろうとした。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
数年後、今一度李陵は北海(ほっかい)のほとりの丸木小舎(ごや)を訪(たず)ねた。そのとき途中で雲中(うんちゅう)の北方を戍(まも)る衛兵(えいへい)らに会い、彼らの口から、近ごろ漢の辺境では太守(たいしゅ)以下吏民(りみん)が皆白服をつけていることを聞いた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
黒いパンツを見た時の、脚のすくむ感情は、現在、加野にとつて、どうしやうもないのである。加野は返事もしないで、ぴゆつと犬を呼ぶ時の口笛を吹いた。自動車小舎(ごや)の方で、微(かす)かに犬が吠えた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
そして、堅(かた)く棒(ぼう)をかって、にわとり小舎(ごや)の前(まえ)にいって、内(うち)をのぞいてみますと、六羽(わ)のにわとりは、よくふとって、とまり木(ぎ)に止(と)まって安(やす)らかに眠(ねむ)っていました。
おおかみと人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
てお呼び声がどこからか聞えるように思ってフイッと眼を開(あ)いてみるてえと、コンクリート作りの馬小舎(ごや)みてえに狭い藁束(わらたば)だらけの床の上へ投げ出されているのに気が付きました。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まだ所々に雪の残っている川岸を進むこと数日、ようやく北海(ほっかい)の碧(あお)い水が森と野との向こうに見え出したころ、この地方の住民なる丁霊族(ていれいぞく)の案内人は李陵の一行を一軒の哀れな丸太小舎(ごや)へと導いた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
……その一軒家は、まだ誰も知らないアイヌ部落の離れ小舎(ごや)だろうと云う者が居る。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)