をんな)” の例文
かどの戸引啓ひきあけて、酔ひたる足音の土間に踏入りたるに、宮は何事とも分かず唯慌ただあわててラムプを持ちてでぬ。台所よりをんなも、出合いであへり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
わたしはその癇高いを聞きながら、埃にまみれた草鞋の紐を解いた。其処へをんなが浅いたらひに、洗足の水を汲んで来た。水は冷たく澄んだ底に、粗い砂を沈めてゐた。
槍ヶ岳紀行 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
お吉の居ぬを不審して何所へと問へば、何方へか一寸ちよと行て来るとてお出になりました、と何食はぬ顔でをんなの答へ、口禁くちどめされてなりとは知らねば、応左様歟、よし/\
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
おくめるひと使つかへるをんな、やつちや青物あをものひにづるに、いつも高足駄たかあしだ穿きて、なほ爪先つまさきよごすぬかるみの、こと水溜みづたまりには、ひるおよぐらんと氣味惡きみわるきに、たゞ一重ひとへもりづれば
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「あ、親分、そんな事は、をんなにやらせて置けば宜いのに——危いなアどうも」
をんなきて
短歌集 日まはり (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
しばし有りてをんなどもの口々に呼邀よびむかふる声して、入来いりきし客の、障子ごしなる隣室に案内されたる気勢けはひに、貫一はその男女なんによの二人づれなるを知れり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
唯一筋の唐七糸帯からしゆつちんは、お屋敷奉公せし叔母が紀念かたみと大切に秘蔵ひめたれど何か厭はむ手放すを、と何やら彼やら有たけ出してをんなに包ませ、夫の帰らぬ其中と櫛かうがいも手ばしこく小箱に纏めて
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
それから早速草鞋わらぢを脱ぎの、行燈を下げたをんなと一しよに、二階座敷へせり上つたが、まづ一風呂暖まつて、何はともあれさむしのぎと、熱燗あつかんで二三杯きめ出すと、その越後屋重吉と云ふ野郎が
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
宮は奥より手ラムプを持ちて入来いりきにけるが、机の上なる書燈をともをはれる時、をんなは台十能に火を盛りたるを持来もちきたれり。宮はこれを火鉢ひばちに移して
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)