妊娠にんしん)” の例文
かく相手あいてなしに妊娠にんしんしないことはよくわかってりますので、不取敢とりあえずわたくし念力ねんりきをこめて、あの若者わかもの三崎みさきほうせることにいたしました……。
早く云えばこの女は、親の許さぬ或る男に身を委せ、とうとう妊娠にんしんして仕舞ったのだ。男は、幣履へいりのごとく、この女をふり捨ててしまったのだった。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
子が無くて夫に別れてから、裁縫をして一人で暮している女なので、外の医者は妊娠にんしんに気が附かなかったのである。
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
金将軍はふと桂月香の妊娠にんしんしていることを思い出した。倭将の子は毒蛇どくじゃも同じことである。今のうちに殺さなければ、どう云う大害をかもすかも知れない。
金将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それは、草雲の母ます女が、彼を妊娠にんしんした時に、良人の常蔵に、その欣びをささやくと、常蔵は、暗然として
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
驚いて口をはなし、手で柔くおさえると、それでも痛いという、血がにじんでも痛いとは言わなかった女だったのに、妊娠にんしんしたのかと乳首を見たが黒くもない。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
わしのそでをつかんで、おゝ妻は妊娠にんしんだったのだ。わしは無礼ぶれいな野武士らの前にひざまずいて、乞食こじきのごとくに哀願あいがんした。ただ出発をほんの五分間延ばすことを。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
今度は春琴は素直に妊娠にんしんを認めたがいかに聞かれても相手を云わない強いてめるとおたがいに名を云わぬ約束やくそくをしたと云う佐助かと云えば何であのような丁稚風情ふぜいにと頭から否定した。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
お千代も度々主家の書生や車夫などと夜がふけてからそっと屋敷を抜出ぬけだして真暗まっくらな丸の内へ出掛けたが、或夜巡査にとがめられ、屋敷から親元へ送り返された。その時お千代は既に妊娠にんしんしていた。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「ではあの、お前が妊娠にんしんした?」
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
が、そのうち妊娠にんしんということが次第しだいわかってたので、夫婦ふうふよろこびはとおりでなく、三崎みさきあいだは、よく二人ふたりちておれいにまいりました。
それはよいが——その文中に、聞きずてならない雑言ぞうごんしるしてある。それは、おまえの妊娠にんしんだ。
御鷹 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伊織は、丁度妊娠にんしんして臨月になっているるんを江戸に残して、明和八年四月に京都へ立った。
じいさんばあさん (新字新仮名) / 森鴎外(著)
保吉 それから一週間ばかりたったのち、妙子はとうとう苦しさに堪え兼ね、自殺をしようと決心するのです。が、ちょうど妊娠にんしんしているために、それを断行する勇気がありません。
或恋愛小説 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そんな訳でとうとう春琴はを張り通し妊娠にんしんの一件を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
答『妊娠にんしんする以上いじょうさんもある。そのさい女性じょせい竜神りゅうじん大抵たいていどこかに姿すがたかくすもので……。』
「叔母さん……叔母さんはおなかが大きいんだね。妊娠にんしんなのけ」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「女の子が妊娠にんしんしたと云ふ感じだなあ。」
O君の新秋 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
妊娠にんしんしていても、子どもは後でどうにでもなると思う。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)