大兵だいひょう)” の例文
十太夫は大兵だいひょうの臆病者で、阿部が屋敷の外をうろついていて、引上げの前に小屋に火をかけたとき、やっとおずおずはいったのである。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
太刀物の具がはっきりしないばかりでなく、第一、楠正成という人は大兵だいひょうであったか、小兵こひょうだったか、それすら分りません。
あのいきおいで、大兵だいひょうな、卜斎にみつけられたのだから、蛾次郎もギャッといって、ぴしゃんこにつぶれたのはもっともだが。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大兵だいひょうとチビ公、無論敵しべくもない、生蕃はチビ公の横面をぴしゃりとなぐった、なぐられながらチビ公はてぬぐいのはしをにぎってはなさない。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
本来、このマドロスは大兵だいひょうでもあり、力も優れていて、拳闘の手も相当に心得ている奴なのでしたけれども、白雲に対してはどうも苦手なのです。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すると鏈鎌くさりがまの名人として、客将の間に名を知られた飛鳥とぶとり左近吾という大兵だいひょうの男が、四辺をジロリと見廻わしながら
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
日ごろ二十何貫の大兵だいひょう肥満を誇り腕力のたくましいことにかけては町内に並ぶもののない問屋九郎兵衛のごとき人にはことに見張りに働いてもらうこと
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しゃくに足らぬ男にも、六しゃくちかい大兵だいひょうにも、一たんの反物をもって不足もしなければあまりもせぬ。もっとも仕立の方法によりてはいかようにもなし得られる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
眺める通路の中ほど太子の船室ケビンと覚しきあたりには、見るから憎々しいあから顔の大兵だいひょうな英人二人がこちらを眺めながら平服の腕を組んで傲然ごうぜんと語り合っている。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
貝ノ馬介は完全に、すてのすがたを自分の大兵だいひょうな装束のなかに、悠然としまい込み、すては気味の悪いほどしずまり返った。貝はもう言葉というものを発しなかった。
筋骨たくましい大兵だいひょう肥満の黒々くろぐろした巨漢と振袖然ふりそでぜんたる長い羽織を着た薄化粧したような美少年と連れ立って行くさまは弁慶と牛若といおう髯奴ひげやっこ色若衆いろわかしゅうといおう乎。
家長のYは、かの女が落着くとすぐ部屋に兵児帯へこおびをちよつきり結びにした大兵だいひょうの体を唐突に運び入れて来て、衣桁いこうにかけた紅入りの着ものや、刺繍ししゅうをした鏡台の覆ひをまじ/\と見て
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
三町ばかり先へ落雷でガラ/\/\/\/\ビューと火の棒の様なる物がさがると、丁度浄禅寺じょうぜんじヶ淵辺りへピシーリと落雷、其のひゞきに驚いて、土手の甚藏は、なり大兵だいひょうで度胸もい男だが
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
有情無形うじょうむぎょう」と大書した横額よこがくの下に、大身の客のまえをもはばからず、厚いしとねにドッカリあぐらをかいている、傲岸不遜ごうがんふそん大兵だいひょうの人物、これが源助町乱暴者の隊長とでもいうべき神保造酒先生で
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いやしくどっとさざめき嘲けった声と共に、にったり笑いながら現れたのは杉山と言われた大兵だいひょうの門弟でした。得物はそのタンポ槍、未熟者の習い通り、すでに早く焦って突き出そうとしたのを
雲岳女史は村井弦斎むらいげんさいが書いた新聞小説の中に出て来る大兵だいひょうな女傑です。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
お供が提灯を持って先に立ち、真中に立派な羽織袴の武士、それにつづいて若党と見ゆる大兵だいひょうな男の三人づれが、この庚申塚の前を通りかかって
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この人は見上げるほどの大兵だいひょうで、紫の打紐うちひもで大たぶさに結い、まちだかの袴に立派な大小だいしょうを差して、朴歯ほおば下駄げたを踏み鳴らし、見るからに武芸者といった立派な風采。
大兵だいひょうのコーブをみごとにはねかえした、かえされたコーブもさるもの、地力じりきをたのみにもうぜんと襲来しゅうらいした、その右手には、こうこうたる懐剣かいけんが光って、じりじりとつめよる足元は
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
六尺近い、大兵だいひょうの峰丹波である。そう太い声で言って、にっと微笑わらった。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
辻の中央に黒々と、大兵だいひょうの武士の姿が見える。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
男妾の浅吉の必死の力を、さしも大兵だいひょうの後家さんが、とうとう突き飛ばしきれず、それに取押えられてしまいました。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なるほど、六尺豊かの歩兵さんとはよく言った、名実相叶うている、よくもこう大兵だいひょうばかりそろえたものだ、この点、また少々感心ものだと見ていると
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いま道場の真中で行われつつある稽古か試合か、一方はすぐれて大兵だいひょうな男、一方はまだ十五六の少年。
もう数十人の稽古者が集まって、入りかわり立ちかわり、師範か代稽古か知らないが、大兵だいひょうの男を中心にぶっつかっている。他の隅々には、それぞれドングリ連が申合いの試合をしている。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
竜之助はかの大兵だいひょうの男よりは、この少年に眼をつけざるを得なかった、というのは、あとの「すくい胴」はとにかく、前の足をはずす巧妙さ、自分にも覚えがあるが、柳剛流の足は難物なんぶつ
それは白雲が大兵だいひょうの男であるのに、駒井の普通のたけは合わず、ことに着慣れない筒袖が、見た眼よりも着た当人を勝手の悪いものにして、ちょいちょい肩をすぼめてみる形が駒井を笑わせる。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
第一その斬り手は大兵だいひょうではなかったこと、むしろ小兵こひょうの男で、覆面をしていたこと、斬った後に失策しまった! というような叫びを残して行ったこと、その声は細い声であったというようなこと
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)