夜来やらい)” の例文
旧字:夜來
中務ノ宮は、奈良街道をふたたび馬にムチ打って、南都東南院の法務聖尋しょうじんの許へ、夜来やらいのてんまつ、並びに、勅のお旨をつたえに馳せた。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一切も綺麗きれいに始末されていた。其所そこいらにはよごものの影さえ見えなかった。夜来やらいの記憶は跡方もない夢らしく見えた。彼は産婆の方を向いた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
事件急迫のために、宿直室で雑魚寝ざこねをしていた係官一同は「カフェ・ネオンに第三の犠牲者現わる」という急報に叩き起されて、夜来やらいの睡眠不足も一時にどこへやら消しとんでしまった。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
夜来やらいの雨がれて、いいお天気でした。健ちゃんは学校へ行きました。より江は蛙がいなくなったと騒いでいました。戸外では、まぶしいほど朝陽あさひがあたって、青葉は燃えるように光っていました。
(新字新仮名) / 林芙美子(著)
夜来やらいの心遣いと睡眠不足のためにズキズキ痛む頭を、屋外のすがすがしい空気にさらしたくもあって、私はそのまま、顔も洗わないで、階下の縁側から、裏庭へと立出で、散歩のていを装いながら
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いとど蒸す夜来やらいの空は
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
八幡やわた、山崎、竹田、宇治、勢多せた、深草、法勝寺などにわたる夜来やらいからの赤い空は、ただまっ黒なものとなり、小雨はやんで、東山のみねには
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天下の興廃は叡山一刹いっさつの指揮によって、夜来やらい日来にちらいに面目を新たにするものじゃと思いめたように、娓々びびとして叡山を説く。説くはもとより青年に対する親切から出る。ただ青年は少々迷惑である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、尊氏の前へ出たのは夜明けがたであり、尊氏も夜来やらい、物ノ具を解かず、大庭にとばりを張らせ、たてのうえで、ほんの仮寝をとっただけだった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
足利の叛旗もすでに知っている。そして夜来やらい異常な六波羅中の空気から、今日の危機までよくそのはだで感知していた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「は。……このうえは夜来やらいの軍備をそっとお解きあって、またのよい機会をお待ちあるようにと、お案じをのこしつつ、ぜひなく参内なされました」
楠木正成、正季まさすえ以下の急援部隊がこれへ着いたのは。——そしてこの一軍も、夜来やらいの風雨とぬかるみに悩んで、泥のようになって来たのは同様だった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜来やらい、ここへ呼び集められていたのは、長年の子、小次郎長義ながよし、孫三郎基長もとなが、六郎太義氏よしうじ、いちばん末子の竹万丸。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おことばですが」と、宋江は夜来やらい沈湎ちんめんたるおもてを振り上げて「——私は長官の客で鄆城県うんじょうけん張三ちょうさんと申す旅人、賊をはたらいた覚えはありません」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
咲耶子は夜来やらい変事へんじをつぶさに話して、いまに、この谷へも、大久保長安おおくぼながやす手勢てぜいがきて、小太郎山のとりでどうよう、ぞんぶんに蹂躪じゅうりんするであろうとつげた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜来やらいの雨に、は、加茂の小石小石の水陰みずかげから、東山のいただきまで、いちどに春をちみなぎらした。いま。
なぜならば、夜来やらい、足利軍のまえにも、重厚な敵陣はしかれていたのに、これだけの兵馬が川を渡って来るあいだ、敵から一ト矢のひびきもないのはなぜか。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みかどは、破れ輿の内に、背をもたせかけて、夜来やらい、おつかれらしく、うつらうつらしておわしたが
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「だまれっ」と、さらに御叱咜ごしったするどく——「夜来やらいいかなる非常か知らぬが、なんでわが身の処置を、なんじらごとき者のさしずに待とうや。退さらぬか。退さりおろうっ」
そしてきょう一日は、夜来やらいすいもせぬ兵馬のため、陣やすみという太鼓だいこがなる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分では健康をそこねているなどと意識しているふうではなく——ただ夜来やらいの風雨には辟易へきえきしたらしく、生田いくたもりに兵馬をさけ、自身も社殿のうちに一夜をしのいだ。そして二十四日の今朝
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼ら一そんの一ト旗組も、地理に明るいところから、夜来やらい、幕軍の落人狩おちゅうどがりの犬となって、あちこち獲物を求め歩いていたが、いま神童子越えのあざ“岩間”の山中まで来ると、先を歩いていた仲間が
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜来やらい惰気だき昏迷こんめいを、むうっとするばかりよどませている。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)