夕靄ゆふもや)” の例文
はるか向ふに薄墨色をしてゐるやまから、夕靄ゆふもやが立ちめて、近くの森や野までが、追々薄絹に包まれて行くやうになつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
這々はふ/\の體で一丁ばかり逃げ延びると、夕靄ゆふもやの中には親分の平次、ニヤリニヤリと笑つて迎へるのです。
銭形平次捕物控:050 碁敵 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
ぬま呼吸いきくやうに、やなぎからもりすそむらさきはなうへかけて、かすみごと夕靄ゆふもやがまはりへ一面いちめんしろわたつてると、おなくもそらからおろして、みぎはく、こずゑあは
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
今は夕靄ゆふもやの群が千曲川ちくまがはの対岸をめて、高社山かうしやざん一帯の山脈も暗く沈んだ。西の空は急に深い焦茶こげちや色に変つたかと思ふと、やがて落ちて行く秋の日が最後の反射をに投げた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
汽車きしやこゝろざひとをのせて、陸奥みちのくをさしてくだく——れかゝる日暮里につぽりのあたり、もり下闇したやみに、遅桜おそざくらるかとたのは、夕靄ゆふもやそらきざまれてちら/\とうつるのであつた。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
夕靄ゆふもやの群は低く集つて来て、あそこでも、こゝでも、最早もうちら/\あかりく。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
平次は默つて夕靄ゆふもやの中を眺めて居ります。