半町はんちょう)” の例文
半町はんちょうばかり往くと桐島のやしきが来た。花崗岩みかげいしを立てた大きな門の上には電燈が光っていた。その電燈の上に裸樹はだかぎの桜の枝がかすかに動いていた。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
さし渡し半町はんちょう程のべら棒な巨大文字もんじ。その余りの大きさに、我が靴跡で描きながら、少しもそれと気づかなかったのだ。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
馬車は半町はんちょうもいかないうちにぴたととまってしまった。松次郎はあわてて跳びおりた。ほっぽこ頭巾ずきんからだけ出した馭者の爺さんがむちを持って下りて来た。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
不思議なのは、それが昨夜ゆうべ私が立っていたところと、ものの半町はんちょうへだっていない所なので、これを見た時には、私は実に一種物凄いかんじもよおしたのであった。
死神 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
藪はしばらくのあいだは竹ばかりです。が、半町はんちょうほど行った処に、やや開いた杉むらがある、——わたしの仕事を仕遂げるのには、これほど都合つごうい場所はありません。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ゆき別れた足軽あしがるのすがたが半町はんちょうばかり遠ざかると、ける色もなく、そこに取りのこされた竹童は
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
草原は一面に霧がかゝって、つい半町はんちょうほどさきさえも、見えない日が一週間ほどつゞいた。
雪のシベリア (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
やが嫁入よめいり行列は、沈々ちんちん黙々もくもくとして黒い人影は菜の花の中を、物の半町はんちょうも進んだころおい、今まで晴れていた四月の紫空むらさきぞらにわかに曇って、日があきらかに射していながら絹糸のような細い雨が
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
走ってみたらと思ったので、私は半町はんちょうばかり一生懸命に走ってみた、蝶もさすがに追ってこられなかったものか、最早もう何処どこにも見えないので、やれ安心と、ほっと一息付きながら歩き出した途端
白い蝶 (新字新仮名) / 岡田三郎助(著)
白玉か何ぞと問いしいにしえも、かくやと思知おもいしられつつ、あらしのつてに散花ちるはなの、袖にかかるよりも軽やかに、梅花ばいかにおいなつかしく、蹈足ふむあしもたどたどしく、心も空にうかれつつ、半町はんちょうばかり歩みけるが、南無妙。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、そのあとからわかい男が血に染まった白刃しらはりながら追っかけて来た。謙蔵は恐れて半町はんちょうばかりも逃げ走って、やっと背後うしろり向いた。
指環 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかし半町はんちょうほど逃げ延びると、わたしはある軒下のきしたに隠れながら、往来の前後を見廻しました。往来には夜目にも白々しろじろと、時々雪煙りがあがるほかには、どこにも動いているものは見えません。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と、そのなかから、焔々えんえんと燃えつつながれだしてきたのは、半町はんちょうもつづくまっ赤なほのおの行列。無数の松明たいまつ。その影にうごめく、野武士のぶし、馬、やり、十、旗、すべて血のようにまって見えた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その街路とおりは右の方へ半町はんちょうばかり往くと三叉路さんさろになって、左は暗いたらたらおりの街路とおりになり、右は電車の停留場前になって、すこしの間ではあるが人道じんどうと車道の区別をした広い街路とおりには
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)