刀自とじ)” の例文
酒は刀自とじの管理に属し、これをかもす者もまたうばであったことを考えると、彼らの手で分配するのが正式であったことはうなずかれる。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
当時、京都には、妓王、妓女ぎじょと呼ばれる、白拍子しらびょうしの、ひときわ衆に抜きん出た姉妹があった。その母も刀自とじと呼ばれ、昔、白拍子であった。
豊雄、刀自とじにむかひて、兄の見とがめ給はずとも、みそかに姉君を一五三かたらひてんと思ひ設けつるに、一五四はやさいなまるる事よ。
刀自とじ・若人たちは、一刻一刻、時の移るのも知らず、身ゆるぎもせずに、姫の前に開かれて来る光りの霞に、唯見呆けて居るばかりであった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
数日の後、荻原一家は、神奈川台の島津春子刀自とじの家にいた。この人も長い間の、年長の友達であった。そして、小石川の浜節子の邸に落着いた。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それは広岡浅子刀自とじで、刀自は日本服などは賢い人間の着るべきものでないといふので、始終洋服ばかりつけてゐる。
もっとも白山へ来訪をうけた尼刀自とじへ返礼に出向でむかいたいのに、いつわりはないのですが、そんな事はどうでもいい。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
古くさい書物だなから、唐守からもり藐姑射はこや刀自とじ赫耶姫かぐやひめ物語などを絵に描いた物を引き出して退屈しのぎにしていた。
源氏物語:15 蓬生 (新字新仮名) / 紫式部(著)
しかし残された刀自とじ、若人たちのうちまもる画面には、見る見る数千の地涌じゆの菩薩の姿が、浮き出てきた。それは幾人の人々が、同時に見た、白日夢はくじつむのたぐいかも知れぬ。
「実のるも見む」(巻十九・四二二六)、「御船みふねかもかれ」(巻十八・四〇四五)、「櫛造る刀自とじ」(巻十六・三八三二)、「やどりする君」(巻十五・三六八八)等は
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
歩み歩み、後からいて来た品のよい切下げ髪の老婆が、朱実の背をのぞいてあやした。よほど子好きな刀自とじとみえ、供の下男にまで、この愛らしい笑い顔を見よ、というのだった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
刀自とじの仰しゃることなら原田どのも聞くでしょう、私も好んで国目付などに訴状を出したいのではない、できるなら国老のあいだで事をおさめたい、という意志を伝えていただきたいのです」
……されば、逐々ありありて戻り来しか。来る年も来る年も待ちったが、冥土の便宜びんぎ覚束いぶせしないか、いっこう、すがたをお見されぬ。今もいま、ばば刀自とじ愚痴かごというていた。……ああ、ようまあ戻り来しぞ。
生霊 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
主な一人は未亡人海間の刀自とじである。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
はは刀自とじ枕屏風まくらびょうぶ
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一一四刀自とじの君の病み給ふもいとことわりなるものを。そも一一五ふる人は何人にて、家は何地いづちに住ませ給ふや。女いふ。
このオカカないしは刀自とじの地位は、慣習的にちゃんときまっていた。任務と権能と是に相応する尊敬とが附いていた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
広岡浅子刀自とじが亡くなつた。年中洋服を着て、古くから日本にあるものは、すべてやくざ物だとばかり思ひ込んでゐた面白い婆さんだつたのに惜しい事をした。
又処置方について伺うた横佩墻内の家の長老とね刀自とじたちへは、ひたすら、汝等の主の郎女いらつめを護って居れ、と言うような、抽象風なことを、答えて来たりした。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
十九年になって中島歌子刀自とじもとへ通うまでは独学時代であったろうと考えられる。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
刀自とじは甲斐を信じきっているのだ、と新左衛門は思った。
僅かに百年の前にさかのぼっても、地方の婦人殊に刀自とじたちは、決してそのようなおなさけは予期していなかった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
若人たちは、ことごとく郎女のいおりに上って、刀自とじを中に、心を一つにして、ひしと顔を寄せた。ただ互の顔の見えるばかりの緊張した気持ちの間に、刻々に移って行く風。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
この頃の寒さに早稲田の応接間で、口を歪めてちゞかまつてゐる大隈侯の夫人綾子刀自とじである。
豊雄、此の事只今は一四九面俯おもてぶせなり。人つてに申し出で侍らんといへば、親兄にいはぬ事を誰にかいふぞと声あららかなるを、太郎の嫁の一五〇刀自とじかたへにありて、此の事一五一おろかなりとも聞き侍らん。
佐佐木先生もばれていったが、どうも、その婦人は、年をとった偉い人なのだろうと出かけてゆくと、立派なうちで、集まっている人たちも、浜子刀自とじとは、どんな人かとみんなが堅くなっていると
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
バンチャ・バンチクも人柄のよい老刀自とじたちには気のどくな話だが、つまりは女性の中でも一番遠慮なしに、よく物をいう人だという心持が、その流行を助けたという点は
刀自とじは食べ物の用意に余年もない時刻であって、今年ばかりの遊歴の文人に、手伝ってもらう仕事は一つもないばかりか、おちおちと話の相手になる者もあったはずがないのである。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)