八歳やっつ)” の例文
賢一郎 (やや冷やかに)俺たちに父親てておやがあれば、八歳やっつの年に築港からおたあさんに手を引かれて身投げをせいでも済んどる。
父帰る (新字新仮名) / 菊池寛(著)
の不思議なことのあつたのは五月中旬なかば、私が八歳やっつの時、紙谷町かみやまちに住んだ向うの平家ひらやの、おつじといふ、十八の娘、やもめの母親と二人ぐらし。
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
八歳やっつの昔なれば、母の姿貌すがたかたちははっきりと覚えねど、始終えみを含みていられしことと、臨終のその前にわれを臥床ふしどに呼びて
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
源叔父の独子ひとりご幸助海におぼれてせし同じ年の秋、一人の女乞食日向ひゅうがかたより迷いきて佐伯の町に足をとどめぬ。ともないしは八歳やっつばかりの男子おのこなり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
私が七歳ななつ八歳やっつの頃、叔父に連れられて一度その二階にのぼったことがある。火鉢に大きな薬缶やかんが掛けてあって、そのそばには菓子の箱がならべてある。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
角「誠に年はいかねえが、へえ八歳やっつぐれえなもんで、へえ実のなる木は花から違うって、あんたおさむれえでごぜえやすな」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
やや聞分けもあると、力にしている今若も、まだ八歳やっつだし、生なか物心のあるだけに、乙若よりは恐怖を知っていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
相撲に取られるのが本筋なんでしょうけれど……何しろ、その時に八歳やっつで、二十五貫目からありました、相撲のうちでも、めったにあんなのは出ません。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「浩二は悧巧だ。目から鼻へ抜けるというのはあの子のことだろう。とて七歳ななつ八歳やっつの智慧じゃない」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
源氏よりは八歳やっつ上の二十五であったから、不似合いな相手と恋にちて、すぐにまた愛されぬ物思いに沈む運命なのだろうかと、待ち明かしてしまう夜などには煩悶はんもんすることが多かった。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
私の前まで来ると、立止ってキチンと足を揃え、頭がひざの所まで来るほどの丁寧なお辞儀をしてから、食事の用意が出来たことを告げた。私の泊っている島民の家の児で、今年八歳やっつになる。
あれ八歳やっつの時分に郷里くにを出たッきりよなし」とお種は嘉助の方を見て。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
其の母が、私が八歳やっつの夏でした。
薬指の曲り (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あの子に聞いても頑是がんぜのない七歳なゝつ八歳やっつの子供ゆえ何も分らず、親類は知れず、仕方がないから江戸へつれて行って私の娘にして育てるのは当然あたりまえじゃありませんか
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わが子をめるは馬鹿のうちと申しますが、まあ、お聞きくださいまし、八歳やっつの年の時でござりました、村の子供と大勢して遊んでおりますと、そのうちの一人が
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
俺は父親てておやから少しだって愛された覚えはない。俺の父親てておやは俺が八歳やっつになるまで家を外に飲み歩いていたのだ。その揚げ句に不義理な借金をこさえ情婦を連れて出奔しゅっぽんしたのじゃ。
父帰る (新字新仮名) / 菊池寛(著)
右門は江戸で生れたので、家来の話に聞いただけであるが、この長兄の片目になった原因は、七歳ななつ八歳やっつ頃の事、柳生城のやぶ悪戯いたずらをしていて、たけで目を刺したのがもとだということであった。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浪子は八歳やっつの年実母ははに別れぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
多「お懐かしゅうがんした、おかゝさま、八歳やっつの時にお別れ申した貴方あんたの実の子の多助でがんすよ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)