侠気おとこぎ)” の例文
旧字:侠氣
エドワルド、セビルという侠客おとこだてがございますが、これを江戸屋えどや清次郎せいじろうという屋根屋の棟梁とうりょうで、侠気おとこぎな人が有ったというお話にします。
そは心たしかに侠気おとこぎある若者なりしがゆえのみならず、べつに深きゆえあり、げに君にも聞かしたきはそのころの源が声にぞありける。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「なるほど、いつもながらの侠気おとこぎじゃ。恋はすれど意気地もなく、天蓋てんがいの下に身をかくしている、この弦之丞などは面目ない」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いろは屋文次! 侠気おとこぎめいた殊勝な名じゃ。さだめてやりおることであろう。そちから厚くねぎらって取らせい」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
利助も取る年でいくらか気がくじけた上、平次の潔白な侠気おとこぎが、何より先に、娘のおしなを動かして、今では身内のように付き合っている二人だったのです。
「いや、纒まるには纒まるだろうが、この頃の若い人達はナカ/\進んでいる。実に駈引がうまい。うっかり侠気おとこぎを出して口をきくと、好い馬鹿になる」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「はだしで、髷をくずして、夜みちで、犬に吼えられているのを見ちゃあ、日ごろの侠気おとこぎで捨てちゃあ置けねえ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「はい」と浜路嬉しそうに、「ほんとにほんとによい方で、芸人さんではございますが、いやらしいところなどは微塵もなく、侠気おとこぎがあるのでございますの。 ...
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「は、だんなさまの侠気おとこぎにおすがりいたしましたら、どんな秘密でもお守りくださいますからと、わたしがおすすめ申しまして、お連れしたんでございますよ」
思切おもいきって坂道を取ってかかった、侠気おとこぎがあったのではござらぬ、血気にはやったではもとよりない、今申したようではずっともうさとったようじゃが、いやなかなかの臆病者おくびょうもの
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「講釈流で行くと、ここで、岡田小藤次は、侠気おとこぎを見せますな。何んにも云わねえ、行って来な」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
こう云うと、たいそう侠気おとこぎがあるようですが、これをうまく片付けてやれば、屋敷からは相当の礼をくれるに決まっている。時々こういう仕事も無ければ、大勢の子分どもを
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あるいは強くて情深くて侠気おとこぎがあって、美男で智恵があって、学問があって、先見の明があって、そして神明の加護があって、危険の時にはきっと助かるというようなものであったり
まあ、ともかく、自分が人に苦労をかけただけに、人のために一肌ぬぐことも鼻にかからない俗に侠気おとこぎというやつで、これが妙に人気を取返し、期せずして恩返しというやつにありつくものだ。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
分つてみれば結句気のいい女で、侠気おとこぎで出しやばりで機嫌買ひで、そのため損ばかりしてゐるやうな性分なのだ。十吉は次第に、この女の歴史には何か不幸があると、そんな風な気がしはじめてゐた。
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
銀五郎が死の刹那せつなに、ああまでの熱と侠気おとこぎとを見せてすがったればこそ、では——と、お千絵様のために、かれの意思をついでったのだ。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いっさいのなぞがその陳述によって解きあかされましたものでしたから、右門の全能力はここに戛然かつぜんと音を発せんばかりに奮い起こりました。第一はその侠気おとこぎです。
侠気おとこぎの御気性でよもや世間へ云っては下さりますまいから、段々との御親切ゆえ申しますが、私がきていては夫に済まないと申す訳を一通りお話を致した上からは
お六というのは、れっ枯らしと純情と、侠気おとこぎ自堕落じだらくを兼ね備えたような、この社会によくある型の女、不きりょうではあるが、八五郎が強調したほどみにくくはありません。
なんだお前はガブリエルか。相変らず侠気おとこぎを出すじゃないか。伊太利気質イタリーかたぎっていう奴かな……宿賃を代わって出すっていうなら、誰から貰ったって同じことだ。お前から其奴そいつ
死の航海 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
江戸の町人は侠気おとこぎに富むと聞く。な、討たせてくれ。公儀へは追って届ける。さすればお前も、義に勇んだかどによってそこばくの下し物に預かるぞ。そこらは必ず俺が計ろう
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
侠気おとこぎがあって、素直で、命がけに惚れ込んで、それでいて、男らしく諦めて——
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「第一、侠気おとこぎがあるね。ほら、二人が三島まで来て、お金が無くなって困っていた時に、あの親方に助けられたんだろう、わたしの三味線がいいから下座げざに使ってやると言って、中へ入れてくれたから、お関所も無事に通ることができたんだよ」
女にも侠気おとこぎがある。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
御覧のようにあッしゃ少しばかり侠気おとこぎの看板のやくざ者で、神田の小出河岸こいでがしにちッちゃなねぐらを構え
やがて参りましたは前々ぜん/\から申し上げました西浦賀の女郎屋の弟息子、芸者小兼の情夫おもいおとこ江戸屋半治が兄の半五郎という、同所では親分筋、至って侠気おとこぎのある男ですから
もと藤沢ふじさわで相当の宿屋をしていたのが、すっかり失敗して困っていたのを若松屋惣七が、例の侠気おとこぎから助け出して、東海道の掛川の宿に、具足屋という宏壮こうそうな旅籠をひらかせて
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「その代り、神田一番の結構な年増が、飛んだ侠気おとこぎな、良い女とわかったじゃないか」
お仙さんには立派な侠気おとこぎ、そいつがおありなさるので、そいつを利用したこの妾が、自分ながらきたなく見えましてねえ、厭で、厭で、厭で、厭で! ……でももうこうなっては仕方がない
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
妙な侠気おとこぎが出たり、深雪が好きになったり——
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
と、侠気おとこぎを出して、乗りこんだものである。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
明日みょうにち仙太郎親方の処へ往ってお会いになったら宜しゅうございましょう、なか/\侠気おとこぎのお人ゆえ、またお力になる事も有りましょう……旦那様、此の頭巾の裏に白いきれがあって
吹くことがあればと、見込みがあるつもりでしたことなのだ。よくと二人づれで、やったことなのだ。うふふ、侠気おとこぎだの、義理だのという、そんな洒落しゃらくさいものではない、ははははは
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あッしとても人から男達おとこだてだの町奴まちやっこだのとかれこれ言われて、仮りにも侠気おとこぎを看板にこんなやくざ稼業をしておって見れば、決して死ぬのを恐ろしいとも怖いとも命に未練はねえんですが
持前の侠気おとこぎと喧嘩好きから、この喧嘩屋の夫婦、一生涯の協力を約するのは当然で、ここに、顔形から剣を取っての腕まえまで、いずれもけいたりがたくていたりがたい神尾喬之助がふたり
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それに就いても種々いろ/\話があるが、此の浦賀中で私の相談相手というはお前ばかりで、侠気おとこぎを見込んでお頼み申してえ事があるが、尤も決してに漏れんように、口外してくれちゃア困るが
あっしがちっとばかり侠気おとこぎを出したんでごぜえますよ
小三郎も仙太の侠気おとこぎに感服して逢いたいと思う二人が、知らぬ事とは申しながら、仙太郎が赤樫あかがしの半棒で打込みましたが、武辺の心得ある侍は油断のないもので、片手に番傘を持ったなり
「よけいな侠気おとこぎってもんだ。悪いやめえだなア」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
丁度其の晩山田川へ筏を組みに参って居りましたのは、市城村の市四郎と云う侠気おとこぎの人で、御案内の通り筏乗と申すものは、上州でも多く五町田、市城村、村上の辺にすまいを致して居ります。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)