二親ふたおや)” の例文
次の日の明けたる時、家の鶏ばたきして、糠屋ぬかやすみ見ろじゃ、けけろとく。はてつねに変りたる鶏の啼きようかなと二親ふたおやは思いたり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
縦令たとい二親ふたおやは寛仮するにしても、女伴じょはんあなどりを受けるに堪えないと云うのである。そこで李はかねて交っていた道士趙錬師ちょうれんし請待しょうだいして、玄機の身の上を託した。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かくて一日ごとに我が受くるところの恩澤は加はりゆくなり。姫。否、さる筋の事をいふにはあらず。わが二親ふたおやのおん身を遇し給ふさまをば、此幾日の間に我く知れり。
男体なんたい女体にょたい二つ並んで水と空の間にゆったりと立った筑波が、さながらに人のようで、またさらに二親ふたおやのように思われて、其のゆったりとしてやさしく大きく気高く清い姿がなつかしくてなつかしくて
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
どうぞ二親ふたおやに免じて
しかりつけられて我知われしらずあとじさりする意氣地いくぢなさまだしもこほる夜嵐よあらし辻待つじまち提燈ちやうちんえかへるまであんじらるゝは二親ふたおやのことなりれぬ貧苦ひんくめらるゝと懷舊くわいきうじやうのやるかたなさとが老體らうたいどくになりてやなみだがちにおなじやうなわづらかたそれも御尤ごもつともなりわれさへ無念むねんはらわたをさまらぬものを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さういふ時は、先づ故郷で待つてゐる二親ふたおやがどんなに歎くだらうと思ふ。それから身近い種々の人の事を思ふ。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
夕方二人の親帰りて、おりこひめこ居たかと門の口より呼べば、あ、いたます、早かったなしと答え、二親ふたおやは買い来たりしいろいろの支度の物を見せて娘のよろこぶ顔を見たり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
わたくしは小さい時に二親ふたおや時疫じえきでなくなりまして、弟と二人ふたりあとに残りました。
高瀬舟 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
蘭軒の二親ふたおや六十二歳の信階、五十六歳の曾能そのも猶倶に生存してゐたのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
自分は西洋人のふ野蛮人といふものかも知れないと思ふ。さう思ふと同時に、小さい時二親ふたおやが、さむらひの家に生れたのだから、切腹といふことが出来なくてはならないと度々さとしたことを思ひ出す。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)