久濶きゅうかつ)” の例文
やがて小僧がとり次ぐと、和尚さんの姿がそこに出て来た。久濶きゅうかつの友に訪われた喜びが、声やら言葉やら態度やらにあらわれて見えた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
白髪の、いかにも世話ずきらしい気の好さそうな顔をしているが、なにか心配ごとがあると見え、久濶きゅうかつの挨拶も、とかく沈みがちである。
顎十郎捕物帳:15 日高川 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ふたりは、久し振りに会って、心から久濶きゅうかつの想いを、慰め合った。越前守は、この人にだけは、隠すことなく、何でも話せた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むかしの「わたのがんやく」本舗の一人っ子、いまの少壮区会議員小柴市兵衛君と手を取ってすぐわたしは久濶きゅうかつをじょした。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
俺が久濶きゅうかつの挨拶をすると、慷堂や北槻中尉らは、やあやあと言ったが、すぐさま彼らだけで、俺が来る前からやっていたらしい議論をつづけた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
折田はぎろと堯の目を見返したまま、もうその先をかなかった。が、友達の噂学校の話、久濶きゅうかつの話は次第に出て来た。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
互いに死生を共にし合った往年の英傑児同志が、一方は天下の頭山翁となり、一方は名もなき草叢裡そうそうり窮措大きゅうそだい翁となり果てたまま悠々久濶きゅうかつじょする。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私は酒は飲まんけれどもここは駅場しゅくばでよい酒があるという話じゃから一番よい酒をあなたに上げて久濶きゅうかつの情をじょしたいと思う、どうです私の居る所に来ないか
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
もし久濶きゅうかつじょしたいお思召ぼしめしがあるなら、早速さっそくひきわせしようと思いますが、如何でしょうか。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私はと云って挨拶あいさつをした時老師はいやまるで御見逸おみそれ申しましたと、改めて久濶きゅうかつを叙したあとで、久しい事になりますな、もうかれこれ二十年になりますからなどと云った。
初秋の一日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
外記は目礼をしたまま去っていったが、式部が呼びかけたので、甲斐は謙遜に久濶きゅうかつを述べた。
オヤジと久濶きゅうかつ。海老のニュウバーグ他何品か食う。久しぶりで、品のいい、少量の皿を幾つも食った。十八日 大好きな紅焼魚翅を食いたさに、ハネ後、神戸迄ノシて、Hへ行く。
このたび大阪 (新字新仮名) / 古川緑波(著)
その嫁の名が常子、二人の孫の兄が惣助そうすけ、妹が勝子、………と、未亡人は一人々々紹介してから、しばら久濶きゅうかつを叙し合ったが、ここでも雪子を始め姉妹たちの「若さ」が問題にされた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
二人の応酬も、見たところ久濶きゅうかつを叙す挨拶とそれほど変ったところも無くなった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
と三輪さんも主人公の頭顱あたま久濶きゅうかつ叙述じょじゅつに利用した。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「ええ、久濶きゅうかつでした……」
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
その林駒生氏が嘗てこれも座談の名士として聞えた長兄、杉山茂丸氏と福岡市吉塚三角在みすみざい、中島徳松氏の別荘に会し、久濶きゅうかつじょし、夕食の膳に就いた。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「知らいで何とするものか、こりゃ唐草……」軽く肩を叩いて、かたえの庭石へ腰をおろし、久濶きゅうかつの声なつかしげに
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
挨拶をするあいだ、奥山大学が話しかけようとしているのに気づいたし、いま大学と話すことは迷惑だったので、伊達安芸にひと言だけ久濶きゅうかつを述べると、すばやくそこを去って屋敷へ帰った。
やがてこうして集まった家臣と共に、久濶きゅうかつを叙し、一席を設けて献酬しつつお互いの心情を語りあわねばならぬのであった。むろんこの企ては当然のこととしてあの外記にも理解されている。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
安藤先生は久濶きゅうかつじょして卒業を祝した後
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
まるで久濶きゅうかつべ合っている旧友のようだった。しかし二人の古い面識は、そんな温かいものでなく、思い出せばなかなか身の毛のよだつものだったのである。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
久濶きゅうかつの挨拶が終ると、考太夫はこちらの眼を見ながらそう云いだした。
初蕾 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
久濶きゅうかつのあいさつが終って、世情のうわさから、新将軍吉宗の人となり、或いは、政治のこと、鳩巣きゅうそう徂徠学派そらいがくはの悪口など、それからそれへ話が熟したころに至って
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
糜竺びじく兄弟は、さっそく通って、二夫人にえっし、また、関羽に会って、こもごも、久濶きゅうかつの情をじょした。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
久濶きゅうかつの情を誇張して、いかにも親しげな表情である。もう少し弦之丞が白い歯をみせれば、その図に乗って肩を叩き、あわよくば襟首にでもからみついてきそうな按配あんばい
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かつは甚だしく久濶きゅうかつの情をやぶり、せっかくの酒興を傷つける。ご返礼には、他日また、それがしが湖南に一会を設けてご招待するが、きょうはひとまずお別れとしよう。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
語りあえば、久濶きゅうかつの情は尽きない。けれど今は敵味方である。徐庶はあらためていった。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「つい自分ばかりしゃべっていましたが、いまこそです。さあ久濶きゅうかつおもいをお遂げなされませ」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
名はおそろしい海賊かいぞく山賊さんぞくだが、久濶きゅうかつの人情には、かわりのないものとみえる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
梅颸もそれぞれの客に女性らしい久濶きゅうかつをのべた。母子は怱忙そうぼうな半日を、同じ室でまったく対外的に暮して、その間に、荷を出したり、松蔭に雑務を依頼したりして、やっと、午後の三十石船に移った。
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
李粛も、久濶きゅうかつじょして
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
久濶きゅうかつ
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)