不為ふため)” の例文
旧字:不爲
そこで辞し度いは山々だったろうが、両人の仲悪きは天下にも不為ふためであるという秀吉の言には、重量おもみが有って避けることが出来ぬ。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
やぶれを取っては富田三家の恥辱、また仮借かしゃくがあっては新九郎の不為ふため、いずれにしても正しき剣の優劣を明らかにせねばならぬ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かう云ふ場合にお目に掛るのは、好々よくよくこれは深い御縁なのであらうと考へるのですから、決して貴下方の不為ふために成るやうには取計ひません。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「あたしもね、いろいろ考へて居ますけど、あたしから申上げたつてもねえ。」お糸さんは客の不為ふための事となるといつもかう真面目であつた。
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
両親兄弟が同意でなんでお前に不為ふためを勧めるか。先度は親の不注意もあったと思えばこそ、ぜひ斎藤へはやりたいのだ。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
是から一々お前に問うから何も彼も腹臓なく答えぬと返てお前の不為ふためだよ女「はい心得ました」目科は判事の尋問する如く己れも先ず椅子に寄りて
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「だが、待ってくれ。それにしちゃ、あの番頭は、あんまり自分に不為ふためな証拠をこしらえ過ぎた。——それに、犬の足跡に血の付いていたのは、どう片付けるんだ」
もしまた毎晩の藪原通いが殿様の不為ふためでございますなら、どうで身受けしたこの私を、お館へ差し出しくださりませ、きっと私がお殿様の機嫌を程よう取りまして
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
身は一定の国籍のもとにありて、法律ほうりつの保護を受け、もって生命財産の安固あんこを保ちながら、その国の不為ふためはかるごときは、決して国民たる個人の独立行為どくりつこういといわれぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
勝は奸物? 鰹節かつおぶしは乾物という洒落しゃれだろう、勝だってなんだって、徳川家の禄をみながら、徳川家の不為ふためをはかる奴なんぞがあろうはずはないが、そこは時勢だ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私がその日本人の使いをしたとかあるいはまた謀事はかりごとを互いに通じてこの国の不為ふためを謀ったとかいうような事で毎日調べられるけれども、私は一向いっこうそんな事は知らない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
大目に見ておあげなすって下さいまし。蔦吉さんもあだな気じゃありません。して早瀬さんのお世帯の不為ふためになるような事はしませんですよ。一生懸命だったんですから。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こういう場合に逃げ隠れをすると、かえって本人の不為ふためになるばかりか、主人の三河屋にも迷惑をかける事になる。千太が姿をくらました為に、三河屋はいろいろの吟味をうけて、大迷惑をしました。
つまり、その時代の人心に、司政者にのある時には、法を枉げてもよい、と。天一坊の場合は、あきらかに、かかる者を御落胤として認める事は、天下人心によろしくも無く、御当代の為にも不為ふためじゃ。
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
殿さまには不為ふための老臣がたをおまとめになったのです
日本婦道記:不断草 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
が、自分は末輩の端でも、平家の武士であることに気づくと、余り熱意を表にあらわしては、かえって頼朝の不為ふためだし、この身も妙に疑われてはと
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
流石さすがに検査官は慣て居るだけ静に制してイヤ内儀ないぎ腹も立うが仕方が無い其様な事をするだけ不為ふためだからと云ましたけれど女房は仲々聴きませんはては両の手に左右の戸を
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
精神的にしろ肉体的にしろ、あんまり重荷を担ぐことは、不為ふためのように思われる。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「何と有仰います。お見舞に出ますのが、何でわたくし不為ふためになるのでございませう」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「あッ、何をなさるんです。そんなことをしちゃ、かえって旦那の不為ふためだ」
所詮しょせん兵法修行のうちは、会うたとて、お互いの不為ふため多艱たかんち、忍苦を求め、自分を百難の谷そこへ捨ててみねば、その修行に光はついて来ないのだ。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私の了簡りようけんはかう云ふのだから、必ず悪く取つてくれては困るよ、なう。私だとて年効としがひも無く事を好んで、何為なにしに若いものの不為ふためになれと思ふものかな。お前も其処そこを考へて見てくれ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
畏敬いけいする友であり先輩である。数正の不為ふためを意に介さないならば、事はかんたんだといえるが——極秘を前提として、四隣の耳目じもくはばかると、数正に会うことだけでも容易ではない。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何をしようと三位卿の前へ出れば分る、じたばたするとそのほうたちの不為ふためだぞ」
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうした母を持ち、母のおしえを護符ごふとする子が、なんで、主君のお不為ふためを陣中で策しましょうや。……たとえ上将に対し、異議論争を云いたてましょうとも、胸に二心ふたごころはありません」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただの旅人にいたせ、かようななりを見れば、何かと眼をそばだてて行くに相違ない。万一、蜂須賀家の者と知られて、世間へ噂いたされては後日の不為ふためであろう。とにかく、銀五郎の体を
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……これからも行こうとするみちは決まっているのです。ただそれが、武蔵さまの不為ふためであったら——私が生きていてはあの方の幸福にならないのなら——私は自分を、どうかするほかないのです
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こういう女があってはいけないんですか。武蔵さまの不為ふためなのですか」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「静かにおしよ、騒ぐとかえってお前のほうの不為ふためだからね」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「オオ、善恵房どのからなれば、上人も、お気にかけられまい。月輪の老公のご奔走で、なにかと、護送のことまでも、ご寛大になってきたところ——ここでまた、法令にたてつくようなことが官へ聞こえては上人のお不為ふためになるで」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)