下座しもざ)” の例文
縁側からにじり込んで、下座しもざにズボンの膝を折目正しくかしこまったその紳士を見て、私はまた土地の新進歌人のひとりかと早合点をした。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
その隣りには、半年前に夫をうしなったというまだ艶々つやつやしい未亡人だの、そのめいにあたるという若い女だのが居流いながれていた。帆村はひとり離れて下座しもざにいた。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それから残りのいま一側の炉端が、下座しもざ・下郎座または木尻きじりである。嫁は木尻筋からもらえという諺などもあって、一段と身分の低いものの坐席である。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と云うので驚いて廻り縁から奥の座敷へ通し、茶煙草盆を出し、政七も出て参り下座しもざに坐り、慇懃いんぎんに両手を突き
欣弥、不器用にあわただしく座蒲団ざぶとんを直して、下座しもざに来り、無理に白糸を上座じょうざに直し、膝を正し、きちんと手をつく。
錦染滝白糸:――其一幕―― (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
弥三右衛門の下座しもざには、ひん笄髷こうがいまげの老女が一人、これは横顔を見せたまま、時々涙を拭っていました。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それからわるわる下座しもざほうから、一人一人ひとりひとりちがったおにってきて、おなじようにおどりをおどりました。
瘤とり (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
(第一おら、下座しもざだちゅうはずぁあんまい、ふん、おわんのふぢぁ欠げでる、油煙はばやばや、さがなの眼玉は白くてぎろぎろ、ってもさかずきよごさないえいくそ面白ぐもなぃ)
とっこべとら子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
低く、下座しもざについたのは、あながち、正成が悪くいんぎん過ぎるのでもなければ卑下ひげでもない。
本迹枢要ほんじゃくすうよう陀羅尼品だらにぼん読経どきょうがすんで、これから献香花けんこうかの式に移ろうとするとき、下座しもざにいたひわという腰元が、とつぜん、あッと小さな叫び声をあげて顔を伏せてしまった。
消防がしら、青年会長、同幹事といったような、村でも八釜やかましい老若が一ダースばかり下座しもざに頑張って、所狭しと並んだ田舎料理を盛んにパク付いては、氏神様から借りて来た五合、一升
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その膳と並んだ、納戸よりの上座じょうざが、これも、今日の正客の産婆さんで、書院窓の方に、おしようばんの三太郎おじさんがすわりました。おじさんから下座しもざの方へならんで洋一とフミエ。
柿の木のある家 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
ミラア先生は私の坐つた食卓の下座しもざに就いた。そして一人の見慣れない、外國人らしい年をとつた婦人——あとで佛蘭西語の先生だとわかつた——は別の食卓のおなじやうな下座についた。
「アいや、そこは下座しもざ。そこでは御挨拶もなり申さぬ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と言って幸内ははるかの下座しもざから平伏しました。
越後では炉の片側の燃料置場を、タキジロまたはキジロという語がある。是が炉辺ろばた下座しもざを意味する木尻きじりと混合して、まきを置く所をキジリという例はまた多いのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
すると下座しもざほうから、一人ひとりわかおにってきて、お三方さんぼうの上にものをのせて、おそるおそるおかしらのおにまえって出ました。そしてなにかわけのからないことをしきりにいっているようです。
瘤とり (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
長崎屋の下座しもざにいるのが、西洋医学機械を輸入する佐倉屋仁平さくらやにへい
顎十郎捕物帳:14 蕃拉布 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
すると下座しもざほうからわかおにが、あずかっていたこぶって出て
瘤とり (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
下座しもざに並んで腹を切って見せた。
ボニン島物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)