三宝さんぽう)” の例文
旧字:三寶
媛神 わたしちっとも頼みはしません。こころざしは受けますが、三宝さんぽうにのったものは、あとで、食べるのは、あなたがたではありませんか。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浮浪人はかくして尊むべき三宝さんぽうの一に化し、行基が民衆の間に根強く育てておいたものはついに天平文化の有力な支持者となった。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
国司こくし岳とあるものは恐らく今の所謂いわゆる甲武信こぶしまた三宝さんぽう山を指したもので、他の少数の著書や地図と同じ誤謬に陥ったのであろう。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
さもないことに癇癪を起こして、夕餐の三宝さんぽうを打ち毀し、土器かわらけを投げ砕いたので、侍女どもは恐れをなして早々に引き退がってしまった。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
朗読が終わると、使節の前には二つの三宝さんぽうが置かれ、その三宝の一つ一つには十重とかさねずつの素袍すおうが載せてあった。将軍から使節への贈り物だ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
老人ろうじんは牛を牽いて帰って往った。勘作はそのままやしろへ帰って、堂の上へあがってみると酒やめし三宝さんぽうに盛ってあった。
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
高いところへ登って片足を撞木しゅもくにかけて逆さにぶらさがっているところ、かみしもを着て高足駄を穿いて、三宝さんぽうを積み重ねた上に立っている娘の頭から水が吹き出す
正面に衝立ついたてが立っていて、その前に三宝さんぽうが置いてある、古めかしいきれいな広い玄関だった。胡弓や鼓の音がよく響き、奥へ吸いこまれてゆくようで自分ながら気持ちがよかった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
又、神の子、仏の末裔まつえいであると信じ、宗教への情熱が、人間の中心となり、宗教家は人間の最高の者として、尊敬され、十字軍がしばしば起り、みかどは、自らを三宝さんぽうやっこと称された時代があった。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
台所に杯盤はいばんの音、戸口に見送りの人声、はや出立いでたたんと吸物の前にすわれば床の間の三宝さんぽう枳殻からたち飾りし親の情先ず有難ありがたく、この枳殻誤って足にかけたれば取りかえてよと云う人の情もうれし。盃一順。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
三宝さんぽう利益りやく四方しほう大慶たいけい。太夫様にお祝儀を申上げ、われらとても心祝こころいわひに、此の鯉魚こいさかなに、祝うて一こん、心ばかりの粗酒そしゅ差上さしあげたう存じまする。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
料紙を載せた三宝さんぽうなぞがそこへ持ち運ばれた。その時、吉左衛門は、駕籠のそばにひざまずいて、言葉も簡単に
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
微暗うすぐらい土蔵の中には中央なかほどに古い長櫃ながもちを置いて、その周囲まわり注連縄しめなわを張り、前に白木の台をえて、それにはさかきをたて、その一方には三宝さんぽうを載っけてあった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
一連の大山脈即ち東は雲取山から西は三宝さんぽう山に至る長大なる連嶺を天半に聳立せしむるのである。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
堅く酒肉五辛を断って三宝さんぽうに帰する心が深かった。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼女は家にある土器かわらけなぞを三宝さんぽうに載せ、孫娘のお粂には瓶子へいじを運ばせて、挨拶あいさつかたがた奥座敷の方へ行った。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
左の山は陸測五万の金峰山図幅に二千四百六十八米と測られたもので、栃本の猟師は木賊とくさ沢ノウラ、梓山の猟師は雲切山と呼んでいる。右の山は言う迄もなく三宝さんぽう山である。
望岳都東京 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
耳門がいて定七が小さな白木の三宝さんぽう瓦盃かわらけを二つ三つ載っけて入って来た。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
入川谷の支流赤沢の谷を埋むる闊葉樹の深林を脚下に眺め、南方破風山から甲武信、三宝さんぽうの二山にわたる針闊混淆林、針葉樹林と、帯のように整然たる深林を見渡したる見事さ。
秩父の渓谷美 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
そこは彼が客をもてなすために用意して待っていたところだ。心をこめた記念の二品は三宝さんぽうに載せて床の間に置いてある。先祖伝来の軸物などは客待ち顔に壁の上に掛かっている。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
油断して林道を踏み外すと全身雪の中に埋没してしまう。二時十五分漸く三宝さんぽう山の下まで辿りついたが右に下る道筋が容易に見付からないので、雪を掻いて地面を改めたりなどした。
釜沢行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
原から望まれる三宝さんぽう山の如きも、立山から乗鞍、御岳、東西の両駒ヶ岳、最後に金峰山と、三十日近くも山旅を続けて、帰りを急ぐ私の心を捉えるには、余りに黒木が茂り過ぎていたらしい。
思い出す儘に (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
秩父の股ノ沢の最高峰から三宝さんぽう山に行く途中にも同様の場所がある。
木曽駒と甲斐駒 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)