一眼ひとめ)” の例文
エリセーフ氏が外国人であることは、一眼ひとめに分ることである。現代の日本人ならば、「あなたは日本字が読めるのですか」ときくだろう。
日本のこころ (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
仁右衛門は場主の一眼ひとめでどやし付けられて這入る事も得せずにしりごみしていると、場主の眼がまた床の間からこっちに帰って来そうになった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかし毎日毎日ボールを人の邸内にほうり込む者の眼に映ずる空間はたしかにこの排列にれている。一眼ひとめ見ればすぐ分る訳だ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
……その前にタッタ一眼ひとめ先生のお顔を見て死にとう御座います。先生のお顔を記憶して地獄へ墜ちて行きとう御座います。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
が、一眼ひとめ私の足もとの靴を見るが早いか、彼女は「またか!」というように悲しそうな声を揚げて顔を覆った。
私は、何気なく上ろうとして、一眼ひとめで見渡せるこの家の中の、余りの乱雑さに、思わず足が止ってしまった。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
あにさんく入らしって下さいました、お目に掛られた義理ではありませんが、何卒どうかもう私も長い事はございますまいから、一眼ひとめお目に掛って死にたいと存じましても
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
くちなはきらめきぬ、蜥蜴とかげも見えぬ、其他の湿虫しつちうぐんをなして、縦横じうわう交馳かうちし奔走せるさま一眼ひとめ見るだに胸悪きに、手足をばくされ衣服をがれ若き婦人をんな肥肉ふとりじし酒塩さかしほに味付けられて
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いや、それより秋蘭だ。ああ、あの秋蘭め、俺をここからひきり上げてくれ。俺はお前にもう一眼ひとめ逢わねばならぬ。俺はお前のいったマジソン会社へこれから行こう。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
彼は一眼ひとめ見てそれは夕方に見えていた四つ手網を仕掛けている小屋の燈だと思った。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかし不思議なことには、そういう分析などはしないで、ただの眼で見れば、その型式が一眼ひとめで分ってしまう。何か差異があるからにちがいない。
小六ころく無論むろん叔父をぢ夫婦ふうふとも二人ふたりむかひにてゐた。宗助そうすけ一眼ひとめ其姿そのすがたたとき、何時いつにか自分じぶんしのやうおほきくなつたおとうと發育はついくおどろかされた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
微塵みじんでも正義にそむく奴は容赦なくタタキ斬り蹴飛ばして行く人という感じに、一眼ひとめで打たれてしまうのであった。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
朝山を登る時路傍みちばたの赤い実のついたいばらの中から、猿とも嬰児あかんぼともつかない怪しいものが、ちょろちょろと出て来て、一眼ひとめじろりと丹治の顔を見たあとで、また傍の草の中へ入ってしまった。
怪人の眼 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
一眼ひとめで日本人と白眼にらんだためにそのままに済んだ。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
私は一眼ひとめで見渡せる家の中を、もう一遍見直した。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
ただ一眼ひとめ見たが最後! 見た人は彼女の魔力から金輪際こんりんざいのがるる事は出来ない。あの色はただの赤ではない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一眼ひとめなりともお目もじがかないまして、このようなお手紙を差し上げられるような身の上になりました事を思いますと、このままにこの秘密を胸に秘めてあの世に旅出ちますよりも
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
順作は一眼ひとめ見て気絶してしまった。
藍瓶 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)