一散いっさん)” の例文
壁にかけてある制服を下ろすと、手早てばやこれに着換えました。それから一散いっさんに家を飛び出して更けた真夜中の街路に走り出でました。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
一散いっさんに浅吉のいた方向に向ってせ出したのは、魂を失うたように、うろうろしていた浅吉が、今しも一本の木の枝を選んで
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
乞食同様の男に二十銭はちっと多過ぎると思ったが、云わるるままにさつつかんでその店先へ駈けて行き、男の前に置くやいな一散いっさんに駈け出した。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は、部屋を飛びだすと背後に拳銃の音を聞きながら、もう応射する気力はなく、莫迦ばかになった右腕をかかえ込んで闇の中を一散いっさんに走っていた。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
一散いっさんげもならず、立停たちどまったかれは、馬の尾に油を塗って置いて、鷲掴わしづかみのたなそこすべり抜けなんだを口惜くちおしく思ったろう。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そういうふうにして、何軒なんげんか廻って風呂敷にいっぱい米がたまると、猿はそれを抱えて、一散いっさんに走り出しました。
キンショキショキ (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
すると影の男は、物をもいわず立上り、つと建物の蔭にかくれると、一散いっさんににげ出した様に思われます。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
矢野は元来才気質さいきしつの男でないから、少しの事にも大木に相談せねば気が済まないというふうであった。ことに今度は東京にいるのだから、一散いっさんにやって来たのである。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
馬のみならず俺ののどもとにも嘶きに似たものがこみ上げるのを感じた。この声を出しては大変である。俺は両耳へ手をやるが早いか、一散いっさんにそこを逃げ出してしまった。……
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
下僕はその書面と出際でしなに私共が持って来たところの一通の書面——それには総管の印が捺してあります——とを持って、荷物はなし身軽ですから、一散いっさんに走って後戻あともどりをして行きました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
一散いっさんに飛上ってくだんの盗人を噛倒かみたおし、尚お驚いて逃出そうとする一賊のうしろから両手をのばしてかじり付き、あわや喰殺し兼まじき見幕けんまく、山賊も九死一生きゅうしいっしょうの場合ですから、持合しましたお町の短刀
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あわたゞしく入来いりきたり何やらん目科の耳に細語さゝやくと見る間に目科は顔色を変て身構し「し/\すぐに行く、早く帰ッて皆にそうえ」と、命ずる間もいそがわしげなり、男は此返事をるや又一散いっさんに走去りしが
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
顔を見られるのがいやさに、一散いっさんに通りの方へととおざかった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
辻斬も牢破りも今はさして米友の注意をくことがなく、ただムクの導くところに向って一散いっさんに走るのみでありました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さるはそういうものを風呂敷いっぱいもらいためると、また一散いっさんにどこへともなく逃げ失せてしまいました。
キンショキショキ (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
縄付きの藤助をその儘にして、激しく斬って来る相手の刀の下を抜けつくぐりつ闘っていると、男はなんと思ったか、俄かにやいばを引いて暗い坂の方角へ一散いっさんに逃げ去った。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わたしは浄厳寺じょうごんじの裏へ来ると、一散いっさんに甚内へ追いつきました。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼は軽機をいきなり持ちあげると、一散いっさんに走った。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
砂煙すなけむりを上げて町のかた一散いっさんげたのである。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
御用聞の小僧は丸くなって駈け出して、駒込七軒町の主人の店まで一散いっさんに逃げて来ました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それから向うに何か見つけ、その方へ一散いっさんに走ってく。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一散いっさんに家へ飛んでいきました。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そうしておいて井村は、刀を抜きかけて来るかと思うと一散いっさんに逃げ出してしまいました。
それに驚いて、楊柳の蔭から一散いっさんに飛び出して、河原を横一文字に走るものがある。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お玉は縁側へ立ち上ってムクを呼びますと、しばらくして物をうなりつけるムクの声、竹藪の中がガサガサすると見れば、そこから飛んで出たムクは、今度は一散いっさんに木戸の方へと走りました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「そうして、この日高郡をめざして一散いっさんに安珍殿を追いかけたものだ」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこで、この少年は、またも一散いっさんに砂浜の上を走りつづけました。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
十津川の岸へ出て一散いっさんに北へとせ下る。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かくて米友は、また一散いっさんに走りました。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)