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らうぢよ
『お
前は
亞尼とか
云つたねえ、
何の
用かね。』と
私は
靜かに
問ふた。
老女は
虫のやうな
聲で『
賓人よ。』と
暫時私の
顏を
眺めて
居つたが
老女ようちなつた
*6といひつゝ木の
盤の上に長き草をおきて
木櫛のやうなるものにて
掻て
解分るさま也。
格子の中より六十餘の
人品能老女聲を
懸其許庇の下に居るとも
濡れ給ふべし此方へ
入て雨を
凌がれよと
念頃に申せしかば彦兵衞大いに
悦び
然ば仰せに
隨ひ
暫時雨舍りを
ハテ、
妙な
事を
言ふ
女だと
私は
眉を
顰めたが、よく
見ると、
老女は、
何事にか
痛く
心を
惱まして
居る
樣子なので、
私は
逆らはない
今も我があたりにて
老女など
今日は布を市にもてゆけなどやうにいひて
古言ものこれり。
東鑑を
案るに、建久三壬子の年
勅使皈洛の時、
鎌倉殿より
餞別の事をいへる
条に
越布千
端とあり。
聽いて
見るとイヤハヤ
無※な
話!
西洋でもいろ/\と
縁起を
語る
人はあるが、
此老女のやうなのはまア
珍らしからう。