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さゞめ
皆天には霧の球、地には火山の
弾子、五合目にして一天の霧
漸く
霽れ、下に
屯めるもの、風なきに
逆しまに
颺がり、故郷を望んで帰り
去なむを
私語く。
一
度に
女房を
見た
彼等には
其の
時まで
私語き
合うた
俤がちつともなかつた。
彼等は
慌てゝ
寶引絲も
懷へ
隱して
知らぬ
容子を
粧うて
圍爐裏の
側へ
集つた。
さうして
暫くしては
又一
齊に
後へぐつと
戻つて
身體を
横に
動搖ながら
笑ひ
私語くやうにざわ/\と
鳴る。
「おつぎは
居るよおめえ、さういに
見ねえでも」
柱の
陰からいつて
私語いた。
自分の
老衰者であることを
知つた
時諦めのない
凡ては、
動もすれば
互に
餘命の
幾何もない
果敢なさを
語り
合うて、それが
戲談いうて
笑語く
時にさへ
絶えず
反覆されて
彼等は
忙しく
手を
動かして
居ると
共に
聲を
殺してひそ/\と
然かも
力を
入れて
笑語いた。
彼等は
戸外の
聞えを
憚らぬならば
興味に
乘じて
放膽に
騷ぐ
筈でなければならぬ。