黒鉄くろがね)” の例文
なにかと思って見ると、街道稼かいどうかせぎの荷物持にもつもちか馬方うまかたらしいならず者がふたり、黒鉄くろがねをはやしたようなうでぶしをまくりあげて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
死を決した岡柳秀子は、その凄婉せいえんな眼を閉じて、氷よりも冷たい黒鉄くろがねの金庫の扉に裸体をもたれました。
青い眼鏡 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
真鉄まがねたて黒鉄くろがねかぶとが野をおおう秋の陽炎かげろうのごとく見えて敵遠くより寄すると知れば塔上の鐘を鳴らす。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
八百の間ことごとく火焔かえんにつつまれ、それを越えようとすれば黒鉄くろがね身体からだでもとけてしまうという火焔山では、孫悟空は羅刹女らせつにょ芭蕉扇ばしょうせんにあおられてひどい目にあった。
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
め組のかしら鋭次えいじというは短気なは汝も知って居るであろうが、骨は黒鉄くろがね、性根玉ははばかりながら火の玉だと平常ふだん云うだけ、さてじっくり頼めばぐっと引き受け一寸退かぬ頼もしい男
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
清水寺の籠堂でお籠りをすることを聞きつけると、走水はしりみず黒鉄くろがねという鉢叩きに烏面からすめんをかぶせ、天狗の現形げんぎょうで籠堂の闇に忍ばせて通じさせたうえ、基房の伽羅の珠数を落してこさせた。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
二勺より路は黒鉄くろがねを鍛へたる如く、天の一方より急斜して、爛沙らんさ焦石せうせき截々せつ/\、風のさわぐ音して人と伴ひ落下す、たまたま雲を破りて額上かすかに見るところの宝永山の赭土あかつちより、冷乳のかめを傾けたる如く
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
その影を流す大理石と黒鉄くろがね
「場所が大使館構内でさえなければあんな書記官の一人や二人くらい叩きなぐってでも埒口らちぐちはあけてしまうのですが、残念ながら英国人に蛆虫うじむし同然の私たち印度人の分際ではどうすることもできなかったのです」とシャアは黒鉄くろがねのような腕を
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
避けて、まぶかき黒鉄くろがね
騎士と姫 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
黒鉄くろがねの黒きをみがいて本来の白きに帰すマーリンの術になるとか。魔法に名を得し彼のいう。——鏡の表に霧こめて、秋の日の上れども晴れぬ心地なるは不吉の兆なり。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黒鉄くろがねの金物を打ちかけた檜の頑丈な箱で、ちょうど五重の重箱ほどの大きさがある。
顎十郎捕物帳:01 捨公方 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
声があったかと思うまに、黒縅くろおどしに黒鉄くろがね鉢兜はちかぶとぶかにかぶった偉丈夫を見た。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
骨は黒鉄くろがね、性根玉は憚りながら火の玉だと平常ふだん云ふだけ、扨じつくり頼めばぐつと引受け一寸退かぬ頼母しい男、塔は何より地行が大事、空風火水の四ツを受ける地盤の固めを彼にさせれば
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
黒鉄くろがねきり
ワルハラの国オジンの座に近く、火に溶けぬ黒鉄くろがねを、氷の如き白炎に鋳たるが幻影の盾なり。……
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その鑓鉄砲やりてっぽうの列や、銃丸火薬そのほかの軍用品を積んだ輸送部隊が、汗の顔にけつくような黒鉄くろがねのかぶとをいただき、旗さし物を負い、武者わらんじを踏みしめて、きょう本国の地を立つと見るや
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小六は袂を探ってその書付を取り出して見せた。それに「このかき一重ひとえ黒鉄くろがねの」としたためた後に括弧かっこをして、(この餓鬼がきひたえ黒欠くろがけの)とつけ加えてあったので、宗助と御米はまた春らしい笑をらした。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、黒鉄くろがねのような、自分の腕をたたいて見せる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)