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駘蕩
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たいとう
ふりがな文庫
“
駘蕩
(
たいとう
)” の例文
馬琴の家庭は日記の上では一年中低気圧に脅かされ通しで、春風
駘蕩
(
たいとう
)
というような
長閑
(
のどか
)
なユックリとした日は一日もなかったようだ。
八犬伝談余
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
ということで、ご自分が、その八寸五分のスマートに他ならぬと固く信じて疑わぬ有様で、まことに春風
駘蕩
(
たいとう
)
とでも申すべきであって
散華
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
駘蕩
(
たいとう
)
の気分を高潮さすべく、最もふさわしい諧調にまで、元始以来洗練され、遺伝されて来ている諧調の定型であるかのように思われる。
能とは何か
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
右手の岸には
巍峨
(
ぎが
)
たる氷山が聳えている。左は
駘蕩
(
たいとう
)
たる晩春初夏の景色、冷い風と生暖い温気とがこもごも河づらを撫でる。
釘抜藤吉捕物覚書:04 槍祭夏の夜話
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
コン吉は今日こそは
正当
(
まとも
)
な昼飯にありつけると、心情いささか
駘蕩
(
たいとう
)
たる趣きを
呈
(
てい
)
しかけて来たところ、アランベエル商会は、その町の入口で
ノンシャラン道中記:02 合乗り乳母車 ――仏蘭西縦断の巻――
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
▼ もっと見る
人で埋った
華奢
(
きゃしゃ
)
な橋の欄干は、ぎっしりと鯉で詰った水面で曲っていた。人の流れは祭りのように
駘蕩
(
たいとう
)
として、金色の
招牌
(
しょうはい
)
の下から流れて来た。
上海
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
酒を愛し、郷人を愛し、いつも春風
駘蕩
(
たいとう
)
といったような
大人
(
たいじん
)
風な好々爺であったらしい。ぼくの母は子沢山の中の四女で、名は、いく子であった。
忘れ残りの記:――四半自叙伝――
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
はいって来た由利江は、例の
駘蕩
(
たいとう
)
たる微笑をうかべながら挨拶をし、今日はおねだりをしにまいりましたと云った。
落ち梅記
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
怒っているような、いかめしい顔つきではなくて、いかにも春風
駘蕩
(
たいとう
)
といったような顔つきです。朗らかな、やさしい顔つきといったらよいでしょう。
般若心経講義
(新字新仮名)
/
高神覚昇
(著)
幸
(
さいわい
)
にして親方はさほど偉大な豪傑ではなかった。いくら江戸っ子でも、どれほどたんかを切っても、この
渾然
(
こんぜん
)
として
駘蕩
(
たいとう
)
たる天地の大気象には
叶
(
かな
)
わない。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
この狂風が自分で自分の勢力を消し尽くした後に自然になぎ和らいで、人世を住みよくする
駘蕩
(
たいとう
)
の春風に変わる日の来るのを待つよりほかはないであろう。
ジャーナリズム雑感
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
ともすれば
懶
(
ものう
)
い
駘蕩
(
たいとう
)
たる春霞の中にあって、十万七千の包囲軍はひしひしと
犇
(
ひしめ
)
き合って小田原城に迫って居る。
小田原陣
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
前者は春風
駘蕩
(
たいとう
)
、後者は寒風
凛烈
(
りんれつ
)
! どんなに寒い日でも熊田校長は
外套
(
がいとう
)
を着ない、校長室に火鉢もおかない、かつて
大吹雪
(
おおふぶき
)
の日、生徒はことごとくふるえていた日
ああ玉杯に花うけて
(新字新仮名)
/
佐藤紅緑
(著)
春風
駘蕩
(
たいとう
)
には、超然としたところがあっていやみげが少ないらしい。父様の御なかの工合が悪くて、機嫌を悪くして被居っしゃる。夜は「鈍色の夢」を少し考えて見る。
日記:03 一九一六年(大正五年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
歳月は墓石に白い百年の
苔
(
こけ
)
をきざみ込んだ後の年、時はあたかも
駘蕩
(
たいとう
)
の春の半ばだった。
姫たちばな
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
この十七字を
誦
(
じゅ
)
して、
駘蕩
(
たいとう
)
たる春風を
面
(
おも
)
に感ぜぬ者は、
竟
(
つい
)
に詩を解するの人ではない。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
六時の鳴るのをも耳にした。七時の打つのも聞いた。八時の鳴るのも数えていた。
駘蕩
(
たいとう
)
たる春の夕もようやくに暮れ、窓から見上げる真っ暗な大空には無数の星が
燦々
(
きらきら
)
と輝いていた。
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
春風が
駘蕩
(
たいとう
)
と吹いている、そういうのどかな春の日に人が歩いているというので、そこで前の単に道を歩くというのにくらべるというと、だいぶ複雑な感情が起こるようになってくる。
俳句の作りよう
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
ヴィルギリウスの『
詠農
(
ゲオルギカ
)
』巻の三に、春色
駘蕩
(
たいとう
)
たる日牝馬慾火に身を焼かれ、高い岩に飛び上がり西に向って軟風を吸う、奇なるかなかくして馬が風のために孕まさるる事しばしばあり
十二支考:05 馬に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
そうしてまた、如何に彼は、その放埓の生活の中に、復讐の挙を全然忘却した
駘蕩
(
たいとう
)
たる瞬間を、味った事であろう。彼は
己
(
おのれ
)
を欺いて、この事実を否定するには、余りに正直な人間であった。
或日の大石内蔵助
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
不動のみ姿ではあるが、いまにも浮々と遊び出るような春風
駘蕩
(
たいとう
)
たる風格も
偲
(
しの
)
ばれる。そういう
懐
(
なつか
)
しさがあって、たとえば法隆寺金堂
天蓋
(
てんがい
)
に奏楽する天人達の
面影
(
おもかげ
)
に近い。しかし不動である。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
駘蕩
(
たいとう
)
たる夜気を
動
(
うごか
)
す千丈の髪。
珊瑚集:仏蘭西近代抒情詩選
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
一、天機
洩
(
も
)
らすべからず花合戦の駆引き。
駘蕩
(
たいとう
)
たる紺碧の波に浮ぶ、ここは「
ニース突堤遊楽館
(
カジノ・ド・ラ・ジュテ・ド・ニース
)
」の華麗なる海上大食堂。
ノンシャラン道中記:04 南風吹かば ――モンテ・カルロの巻――
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
処女の波は彼の胸の前で二つに割れると、揺らめく花園のように
駘蕩
(
たいとう
)
として流れていった。
街の底
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
城代家老の
満信
(
みつのぶ
)
文左衛門は温厚な徳人である。思慮綿密、喜怒を色に表わさず、
曽
(
かつ
)
て人を
叱
(
しか
)
ったことなく、声をあげて笑わず、沈着寛容、常に春風
駘蕩
(
たいとう
)
といった人格であった。
思い違い物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
美しいし可愛いしいいのですが、パッチリしたところなく、春風
駘蕩
(
たいとう
)
で頭の中もそうかもしれません。「はしきやし」はいそがしい最中で、とても色紙買いにゆけず、そのままです。
獄中への手紙:07 一九四〇年(昭和十五年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
春風
駘蕩
(
たいとう
)
たる時代でもなかった。仏像の美にひかれるままに経文を読み、また日本書紀や上宮聖徳法王帝説に接するにおよんで、私の眼ははじめて飛鳥の地獄にひらかれるようになったのである。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
あんな無意味な騒ぎ方をしているのではないかしらと疑いたくさえなった程で、とにかく、藤野先生の講義そのものは、決して私の予期していたような春風
駘蕩
(
たいとう
)
たるものではなく、痛々しいくらいに
惜別
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
春風
駘蕩
(
たいとう
)
たる野道をとぼとぼと歩きながら句を拾うのであった。
漱石氏と私
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
涼しく澄みとおった
双眸
(
そうぼう
)
、鼻も口も耳も頬も、
雑作
(
ぞうさく
)
のすべてが選りぬきの資材と極上の磨きでととのえられている、しかも潤沢な水分と弾力精気に充満した肉躰、
駘蕩
(
たいとう
)
としてしかも
凛然
(
りんぜん
)
典雅なる風格
艶妖記:忍術千一夜 第一話
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
有難く近よりがたいが、同時に春風
駘蕩
(
たいとう
)
として楽しいのである。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
駘
漢検1級
部首:⾺
15画
蕩
漢検準1級
部首:⾋
15画