駒形こまかた)” の例文
仲見世なかみせだの、奥山おくやまだの、並木なみきだの、駒形こまかただの、いろいろ云って聞かされる中には、今の人があまり口にしない名前さえあった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
吾妻橋あづまばしから川下ならば、駒形こまかた、並木、蔵前くらまえ代地だいち柳橋やなぎばし、あるいは多田の薬師前、うめ堀、横網の川岸——どこでもよい。
大川の水 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこで、浅草の駒形こまかたの方に借家をさがして、十一月二十三日には引っ越す筈になったので、例の碁盤はいったん伊勢屋へ返すことになりました。
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
洋行戻りを土産みやげに、かつて自分がひきいていた一団のために芝居を打たなければならなくなり、浅草区駒形こまかたの浅草座を根拠地にして、「又意外」でふたをあけた。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
学校の事も何もも忘れて、駒形こまかたから蔵前くらまえ、蔵前から浅草橋あさくさばし……それから葭町よしちょうの方へとどんどん歩いた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
浅草駒形こまかたに小さいうちだが明家あきやがありましたかられを借受け、造作をして袋物屋の見世を出しました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ましてやこの大島田おほしまだをりふしは時好じこう花簪はなかんざしさしひらめかしておきやくらへて串談じようだんいふところかば子心こゞころにはかなしくもおもふべし、去年きよねんあひたるときいま駒形こまかた蝋蠋ろうそくやに奉公ほうこうしてまする
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
きみいま駒形こまかたあたり時鳥ほとゝぎす
松の操美人の生埋:01 序 (新字新仮名) / 宇田川文海(著)
この時もう我々の猪牙舟ちょきぶねは、元の御厩橋おうまやばしの下をくぐりぬけて、かすかな舟脚ふなあしを夜の水に残しながら、彼是かれこれ駒形こまかたの並木近くへさしかかっていたのです。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
種彦はただどんよりした初秋の薄曇り、このいさましい木遣の声に心を取られながらぞろぞろと歩いている町の人々とあい前後して、駒形こまかたから並木なみきの通りを雷門かみなりもんの方へと歩いて行くうち
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ましてやこの大島田に折ふしは時好じこう花簪はなかんざしさしひらめかしてお客をらへて串談じようだんいふ処を聞かば子心には悲しくも思ふべし、去年あひたる時今は駒形こまかた蝋燭ろうそくやに奉公してゐまする
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
むかし浅草あさくさ駒形こまかた半田屋長兵衛はんだやちやうべゑといふ茶器ちやき鑑定家めきゝがございました。
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
引っ越し先は浅草の駒形こまかただということでした
半七捕物帳:67 薄雲の碁盤 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
第三に見える浅草はつつましい下町したまちの一部である。花川戸はなかはど山谷さんや駒形こまかた蔵前くらまへ——そのほか何処どこでも差支さしつかへない。
野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「君は今駒形こまかたあたりほとゝぎす」を作つた遊女も或は「コマカタ」と澄んだ音を「ほとゝぎす」の声に響かせたかつたかも知れない。支那人は「文章は千古の事」と言つた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
駒形こまかたの渡し、富士見の渡し、安宅あたかの渡しの三つは、しだいに一つずつ、いつとなくすたれて、今ではただ一の橋から浜町へ渡る渡しと、御蔵橋みくらばしから須賀町へ渡る渡しとの二つが
大川の水 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
O君は生憎あいにく僕の問に答へることは出来なかつた。駒形こまかたは僕の小学時代には大抵たいてい「コマカタ」と呼んでゐたものである。が、それもとうの昔に「コマガタ」と発音するやうになつてしまつた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)