駈寄かけよ)” の例文
『ア、ア、アッ、アッ!』と叫んで突起つったったかと思うと、又尻餅しりもちついじっと僕を見た時の顔色! 僕は母が気絶したのかと喫驚びっくりしてそば駈寄かけよりました。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
さぎの森の稲荷いなりの前から、と、見て、手に薬瓶の紫を提げた、美しい若い娘が、袖のしまを乱して駈寄かけよる。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
駈寄かけよった人々がしょくを差上げ、片手を刀の柄にかけて、同じく空を見上げたところで幕になりました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
私は駈寄かけよって先生と握手したい衝動にかられたが、こらえて、ていねいにお辞儀をしたとたんに
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
市郎は殆ど夢中で駈寄かけよった。消えかかる幾多の松明の火が一時にここへ集められた。の光に照し出されたる屍体の有様ありさまは、身の毛も悚立よだつばかりに残酷なるものであった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二人は互いに駈寄かけよると、野原の真中まんなか相抱あいいだいて、しばし美しい師弟愛のなみだにかきくれた。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
やをら起たんと為るところを、蒲田が力に胸板むないたつかれて、一耐ひとたまりもせず仰様のけさま打僵うちこけたり。蒲田はこのひまに彼の手鞄てかばんを奪ひて、中なる書類を手信てまかせ掴出つかみだせば、狂気の如く駈寄かけよる貫一
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「先生。くしゃみが出なかって。」と君江とは仲の好い春代が逸早いちはや駈寄かけよって、「あっちのボックスがいいわよ。」と洋服のそですがり、人目につかない隅のボックスへ連れて行った。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
兄の厳勝としかつの子——兵庫はちょうど何処からか帰って来たところだった。以前とすこしも変らない小柳生城の坂門の外で、今、馬を降りた宗矩のすがたを見ると、驚いて駈寄かけよって来た。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
舞台では奇術師の一人が道化ピエロの側へ駈寄かけよった。そしてしどろもどろな声で
劇団「笑う妖魔」 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
白髪しらがに尊き燈火ともしびの星、観音、そこにおはします。……駈寄かけよって、はっと肩を抱いた。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
駈寄かけよる岸の柳をくぐりて、水は深きか、宮は何処いづこに、とむぐらの露に踏滑ふみすべる身をあやふくもふちに臨めば、鞺鞳どうとうそそぐ早瀬の水は、おどろなみたいつくし、乱るる流のぶんいて、眼下に幾個の怪き大石たいせき
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
敦夫は仰天して駈寄かけよった、そして二本めの燐寸マッチをすって覗きこんだ。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「どうしたんだ。」と、市郎も慌しく駈寄かけよって訊ねた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
駈寄かけよろうとする伊藤を、何故なぜか博士は急に押止めた。
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)