食餌しょくじ)” の例文
ある人の話では日々わずかな一定量の食餌しょくじをねずみのために提供してさえおけば決して器具や衣服などをかじるものではないという事である。
ねずみと猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「この調子で行ったら、あの患者はとてももつまい」と医者は言って、出来るだけいい食餌しょくじを与えるように言い附けた。
そしてもっぱ食餌しょくじ療法に依るようにと云うことで、処方も書いてくれたが、その処方だけが辻博士のとえらく違っていた、と、幸子はそんな話をした。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ここに出ている一頭のニシキヘビの元気が無いことから、食餌しょくじの注意などを云って下すって其儘そのまま出てゆかれたんです
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いや、ろくな食餌しょくじも医薬も与えられているではなし、武大は青黒く眼を落ちくぼませ、意識もすでに普通ではない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
石田家における生活の合理主義は、抜目なく行き届き、石田氏の働きに応じて、食餌しょくじの内容や量を加減するところなどは、たしかに徹底したものであった。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
人家の庭園へ来るのはそんなものが少なくなって、ことに繁殖の栄養のために、動物質の食餌しょくじをここで探すので、僅かな穀粒などは当てにしてはいないのだ。
色、聞、香、味、触の五感覚の中で、母は意識しないが、特に嗅覚を中心に味覚と触覚に彼女の気鬱症はあえきを持ったらしいことが、私にすすめる食餌しょくじの種類でわかった。
桃のある風景 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ざっくばらんな話のできるそんな相手がひどく欲しかったのだが、山口が、食餌しょくじを提供される引きかえのように、そのぼくの態度をいい気な「強制」と取るのがいやであった。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
アミイバが触指を出して身外の食餌しょくじかかえこみ、やがてそれを自己の蛋白素プロトプラズム中に同化し終るように、私の個性は絶えず外界を愛で同化することによってのみ生長し完成してゆく。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
話は肝臓から心臓に移り、いろいろな病気と、その徴候や予兆、また食餌しょくじのとりかたや睡眠や、持薬の種類や服用法や、女色を断つかどうか、というところまでひろがっていった。
燕(つばくろ) (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
吾人もし硬き疎なるじょく上にね、もしくは狭窘きょうきんなる位置にしたるときは、骨を傷つき、もしくは楚撻そたつに遭うと夢み、消化せざる食餌しょくじをなすときは、肥大なる黒熊来たり、わが胸膈きょうかくに当たりて
妖怪報告 (新字新仮名) / 井上円了(著)
勝はただ黙々として食餌しょくじのこと不浄物のことを、まめやかに立ち働いた。
波田は食餌しょくじのことは
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
七、戦闘的食餌しょくじとは青唐辛子に蝮酒まむしざけ。サント・ボオムの囲い場はレエグルという小山のふもとにある。
主たる用途は薬もしくは呪法じゅほうであったが、なお稀々まれまれにはこれを食餌しょくじきょうすることもあった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
鎮静剤として折々臭剥しゅうぼつを飲ませる外には食餌しょくじ療法にっていたが、あぶらっこい物でも支那料理なら好んで食べることが分って、栄養分を取るようにしたのと、冬になって脚気かっけが直ったのと
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
このあいだうちから、千ねん山毛欅ぶな洞穴うつろの中にかくれて、毎朝、喬木きょうぼくの上によじあがり神刑しんけいにかけられている忍剣にんけんの口へ、食餌しょくじをはこんでいたさると見えたのは、まったく、竹童ちくどうなのであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれども、そんな食物よりも大切なのは、愛情だということ。愛情をもって当人に「自分は治る」という自信をもたせること。それが新薬より食餌しょくじより大切だと、おるいさんは信じていたのだ。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
行子が黒谷の尼院のつぼねまがいで、似たような境遇の預姫あずかりひめと長い一日をもてあましていたころ、雑仕ぞうし比丘びく尼たちの乏しい食餌しょくじに悩み、古柯こかという葉を灰で揉んで噛んだり
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
南魚沼郡では苗代の種籾の残りを乾してって、特に石臼で荒く挽いたイリ米というものがあった。これはかゆに煮て病人の食餌しょくじにしたというから(高志路こしじ三巻七号)、名は同じでも別のものである。
食料名彙 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「すこし痩せたのう。食餌しょくじはどうか」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さほど逼迫ひっぱくもしない毎日の食餌しょくじのことを考えあわせれば、そういう陰の働きがあったればこそと、思いあたるわけだったが、女中の口の足りなさもさることながら、自分からは
春雪 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
岩穴前の畑にもみを三斗蒔き、四組の舟子がこの島に漂着した顛末てんまつ、この島での食餌しょくじのありかた、籾のとりかた、衣服のつくりかた、天水のとりかた、船づくりの方法などをくわしく木片に書きつけ
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
山のいも珈琲コーヒー蝮酒まむしざけ、六神丸しんがんと、戦闘的食餌しょくじを供給するものだから、ナポレオンはたちまちのぼせあがって両眼血走り、全身の血管は脈々と浮きあがり、その鼻息はもっぱら壊れたオルガンのごとく