頬鬚ほおひげ)” の例文
年はもう五十を越しているのであろう、鉄縁てつぶちのパンス・ネエをかけた、鶏のように顔の赤い、短い頬鬚ほおひげのある仏蘭西フランス人である。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いたって元気げんきな、壮健そうけんな、立派りっぱしろ頬鬚ほおひげの、快活かいかつ大声おおごえの、しかもい、感情かんじょうふか人間にんげんである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
判で押したように彼は綺麗に赤い頬鬚ほおひげに手入れをして、絶えず微笑をうかべながら、温和な職業的態度で私を見廻って来るので、しまいには私も、おれは恩知らずの
四角張った顔、くちびるの薄い引き締まった口、荒々しい半白の濃い頬鬚ほおひげ、ふところの中まで見通すような目つき、それは透徹する目ではなくて、探索する目と言う方が適当だった。
私等あっしらの馬車に乗っている黒い頬鬚ほおひげはやした絹帽シルクハットの馭者がチョットむちを揚げて合図みたいな真似をすると、どの巡査もどの巡査も直ぐにクルリと向うを向いて行っちまったんです。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
鼠はまるで、灰色の頬鬚ほおひげをはやした侏儒こびとのようでした。何か問うようにセエラをみつめているのでした。眼付が妙におどおどしているので、セエラはふとこんなことを考えました。
骸骨がいこつのように大きい頭、黒い眼鏡、特徴のある口髭くちひげ頬鬚ほおひげ頤髯あごひげ、黒い中国服に包んだ痩せた体——一体この体のどこからあのようなすばらしい着想とおそるべき精力とが出て来るのであろう。
されども紳士は一向心附かぬ容子ようすで、尚お彼方あちらを向いて鵠立たたずんでいたが、再三再四虚辞儀からじぎをさしてから、漸くにムシャクシャと頬鬚ほおひげ生弘はえひろがッた気むずかしい貌を此方こちらへ振向けて、昇の貌を眺め
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
頬鬚ほおひげの生えた角帯の仲買いの四十男がはかりではかって、それからむしろへと、その白い美しい繭をあけた。相場は日ごとに変わった。銅貨や銀貨をじゃらじゃらと音させて、景気よく金を払ってやった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ユーワンは、例の頬鬚ほおひげの執事であった。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そう云う薄暗い堂内に紅毛人こうもうじん神父しんぷが一人、祈祷きとうの頭をれている。年は四十五六であろう。額のせまい、顴骨かんこつの突き出た、頬鬚ほおひげの深い男である。
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
気のきいた小咄こばなしをしていた時、食卓のはしの方で赤い短い頬鬚ほおひげをはやした男が、ここへ来る途中で見知らない一人の気違いに出逢ったことを、尾鰭おひれをつけて話しているのに気がついた。
中食ちゅうじきはテストフてい料理店りょうりてんはいったが、ここでもミハイル、アウエリヤヌイチは、頬鬚ほおひげでながら、ややしばらく、品書しながき拈転ひねくって、料理店りょうりやのように挙動ふるま愛食家風あいしょくかふう調子ちょうしで。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)